文化勲章受章記念 INTERVIEW

奈良国立大学機構理事長の榊󠄀裕之先生が2022 年度の文化勲章を受章されました。
榊󠄀先生の栄えあるご受章に心からお祝いを申し上げますとともに、
今後のますますのご活躍とご健勝を祈念いたします。

学ぶことは喜びであり、 自分の潜在力を引き出す力

 

奈良国立大学機構理事長
榊󠄀 裕之

 

榊󠄀先生は、半導体の微細構造の中で電子の起こす量子力学的な効果が新しい性質や機能を生み出すことを予見し、エレクトロニクスと物理学が交差する新分野の開拓に大きく貢献されました。
 
榊󠄀先生に受章のご感想や若い人たちに向けてのメッセージなどを伺いました。

−文化勲章のご受章おめでとうございます。ご受章なさったご感想をいただきたいです。
 
 私が長年にわたって研究を続けてきた半導体は、様々な製品に使われ、広く社会を支えています。日常生活や産業分野に留まらず、天文観測など基礎科学を進めるのにも不可欠な存在となっています。私が貢献した部分はごくわずかですが、世界各地で知恵と情熱を持つ人々が研究開発と実用化に努めたおかげで、社会に大きく貢献する領域へと発展してきました。今回の授章は過分な評価であると思いますが、この技術領域を代表する形で顕彰頂いたとすれば、とてもありがたいことです。

−先生はどのような想いを持って研究を続けてこられたのでしょうか。
 
 1944年生まれの私は、平和で豊かな社会を築くことに貢献したいと考え、電気電子工学を学び、発展の兆しのあった半導体を専門とすることにしました。半導体は産業界での研究開発は活発でしたが、学術的研究は弱いと感じたため、私は学術基盤を固めるとともに、産業界が見逃しがちの周辺領域の潜在可能性を探ることにしました。その結果、半導体の極薄膜では、電子が膜面に沿っては粒として動くものの、膜厚方向には量子力学的な波としても振る舞うことを示すことができました。また、この量子効果は、薄膜よりも極微の細線や箱構造(ドット)で強まるため、種々の機能の実現に利用できることも見出し、固体物理学の新分野を拓くとともに、工学的な応用の開拓にも貢献でき、とても幸運でした。

−今の時代を生きる若い人たちにメッセージをお願いします。
 
 学びは、人が潜在的に持っている能力を開花させ、自分自身の価値を高める営みだと思います。子どもが言葉を学んでいく過程では、自分の世界が広がり、誰もが活き活きと学ぶことができています。そこに学びの原点がありますが、学校教育や受験を経験する過程で、学びの喜びや自発性が薄れることが起こりがちです。受験勉強を終え、大学で学ぶ若ものたちには、自発的学びには、自身の知性や精神性を高める喜びがあることを再発見して欲しいと願っています。どの専門分野を選んでも、やりがいのある対象を見いだすことができるはずですし、学びの過程で誰も気づかなかった事柄に気づくことが少なくないと思います。どの分野に進んでも、その分野における本質を見つけ出し、学び取ることに努めてください。