61号 Challenge!国立大学 特集【レジリエント社会の構築に向けて】

新潟大学 信州大学 富山大学 三重大学 山口大学 宮崎大学

新潟大学

地域力創造のための災害レジリエンス強化とイノベーションによる地域社会の変革

新潟大学は、これまで日本海側や積雪地域を対象とした地域特性の強い自然災害(地震、津波、豪雪など)と防減災に関わる多様な課題に対し、実践的な教育研究を展開してきた。

このうち2004年の新潟県中越地震に際しては、中山間地災害の発生メカニズム解明から復旧・復興に至るまで「地域に根差した研究」を展開し、超学際的視点から災害レジリエンスの実践的研究に取り組んだ。その成果は、被災者生活再建システム、田んぼダムによる洪水緩和機能、災害食などの開発や、災害医療の展開と人材の育成として社会実装されるとともに、今後予測される巨大災害に備えて社会実装研究を強化している。

一方、近年の自然災害の激甚化・高頻度化や人口減少などの社会変容は、日本全体を支えている地方の地域力を低下させており、地域が対応限界を迎える前に、地域力を再生・強化するための研究を行うことが急務となっている。

このため、新潟大学は、総合大学としての研究・教育機能を活かして、地域力の強化に視点を置いた課題解決型の総合的な防減災研究を推進している。例えば、課題解決型の津波避難マップ作成支援では、行政や研究者が設定したシナリオではなく、住民が津波リスクを理解した上で主体的に議論を進めることにより、新たな気づきや発想が生まれ、災害の特性や伝えたいことを取り入れたマップを作成することができた。

新潟大学の取組は、内在する脆弱性の評価に基づき、災害・環境リスクの制御・共生研究を行うことが特徴であり、地域力創造のための社会変革につながるイノベーションの創出を目的としている。

新潟大学における地域の防減災・復興のための共創体制

地域力向上のための津波避難マップ作成支援(課題解決型の防減災の取組)


信州大学

世界の生活環境と持続可能性に貢献するアクア・イノベーション拠点

21世紀は「水の世紀」と言われている。地球レベルの淡水確保は、持続可能性(サスティナビリティ)を左右する喫緊の問題であり、飲料・生活用水また工業・農業用・都市排水等の様々な造水技術の発展は、人類にとって最重要課題である。信州大学のアクア・イノベーション拠点(COI)は、ナノカーボンやナノセルロースを用いて強靭(ロバスト)性を具備し使用薬品量が少量で済む環境にやさしい「信大開発膜」(複合逆浸透膜)や、「信大クリスタル」(無機結晶材料)による吸着技術等、水の浄化に取り組んでいる。

同大学が強みとする材料技術と強い産学官連携を結集し、COIは世界の様々な国・地域が抱えている水問題を解決すべく、研究開発を進めている。

タイでは水道水源に季節によって塩分が混入するため、「信大開発膜」を用いて脱塩と高透水の実現を目指し、中国の一部の地域では水道水が飲用に適さないため「信大開発膜」を使ったコンパクトな浄水器を開発中。また、サウジアラビアにおいては地下水(化石水)の枯渇対策として掲げられたグリーン・サウジ構想の実現に向けて、「信大開発膜」による海水淡水化技術が注目されている。

さらに、タンザニア・ケニアでは、地下水や河川のフッ素汚染が深刻であり、「信大クリスタル」を用いてフッ素を除去。簡易なフッ素濃度検出器も開発して、現地住民へ安心・安全な水の供給を目指している。

COIは、造水・水循環の技術やシステムを開発して世界に普及させることにより、グローバルな水資源に対してレジリエントな水循環社会の構築に寄与している。

COIが目指す将来の姿

COIの研究連携ネットワーク


富山大学

新興感染症の抗体等を世界最速レベルで取得する連携体制を構築

富山大学では医学部、工学部、附属病院、富山県衛生研究所が連携し、新興感染症のパンデミックに対応する中和抗体を世界最速レベルで取得することができる体制を構築した。また、これにより、新型コロナウイルスのこれまで確認されている多種の変異株感染を防御できるヒト・スーパー中和抗体を新たに取得し、人工的な抗体作出にも成功している。

同大学の強みは「世界最速レベルで抗体を作製し性能評価できる技術」であり、14の国内外特許を取得している。高力価中和抗体を持つ患者を迅速に選定できる技術に始まり、中和抗体を産生する細胞1個をチップ上で捕捉しその遺伝子を取り出す技術、得られた遺伝子から抗原特異的な抗体を多数作り出す技術、そして人工疑似ウイルスを用いた感染実験から抗体を迅速に評価する技術等である。これらを組み合わせると、目的とする抗体を作製するために従来2か月以上かかる工程を1~2週間に短縮することができる。

レジリエント社会の構築に向けて、将来の新興感染症のパンデミックに備えるためには、ワクチンだけでなく治療薬をいち早く研究開発する体制も必要になる。そこで富山大学では、国内外の大学や企業等と連携し経験・知見を集結し、中和抗体の研究開発を進めることができる体制をさらに整備していく。それにより、将来新興感染症が発生した際に国内で速やかに中和抗体を作製し製薬化できるため、より多くの国民の生命を守ることが期待される。

学内外の連携体制を構築

中和抗体作製とその評価に関する富山大学独自の技術


三重大学

大学・行政一体で目指す“レジリエントな三重づくり”

三重大学 地域圏防災・減災研究センターは、同大学の研究成果及び人的資源の活用を図り、大学と行政が一体となった“レジリエントな三重づくり”を目指し、防災・減災に資する教育・研究の推進と、社会貢献への寄与を目的に活動を行っている。

2014年4月からは全国に先駆け、同センター教員と三重県の行政職員が一体化した組織「三重県・三重大学 みえ防災・減災センター」(以下、みえ防災・減災センター)を設置し、地域防災力の向上を目指した活動を実施している。

みえ防災・減災センターでは、①「みえ防災塾」を中心とした防災人材の育成、②育成した人材を活用する「みえ防災人材バンク」の設置、③地域や企業等からの防災に関する相談に対応する「相談窓口」の開設、④県内で過去に発生した大規模災害に関する情報等を収集した「みえ防災・減災アーカイブ」の公開、⑤地震災害とともに昨今頻発する風水害などに関する調査・研究の推進、⑥防災啓発のためのシンポジウムや各種講座の開催等、幅広い事業に取り組んでいる。

また、同センターは、三重大学 地域圏防災・減災研究センターが有する大学としての研究成果や人的資源を活用した「防災に関するシンクタンク機能」を持つとともに、三重県、県内市町や地域、企業等を結ぶ「防災に関するハブ機能」も併せ持ち、各関係機関が有機的に連携することで、県の地域防災力の向上に寄与できる体制を構築している。

みえ防災・減災センター


山口大学

安全・安心を実現するグローカルSDGsコミュニティーの創成

山口大学地域防災・減災センターでは、人口減と高齢化が進行する中、自然災害と感染症のリスクに直面する地方都市が抱える防災・減災、医療介護、公衆衛生の諸問題を解決し、将来を見据えた持続可能かつレジリエントな都市社会モデル「新・宇部方式」の提案を目標に、工・医・理・人文・教育・農の各学部の研究者が集い、活動を展開している。

工学部と医学部が立地する宇部市は、厚東川などの中小河川が流れ、大雨時には河川氾濫と浸水の危険がある。そこで同センターでは、浸水想定区域内の高齢者介護施設等に対して、水害避難計画策定などの支援を行った。この取組では、工学と保健学の2つの視点から、施設の水害避難計画の策定支援や施設・地域住民・行政が協働するコミュニティーづくりを進めた。また、令和2年7月豪雨で被災した特別養護施設等へのヒアリング調査を実施し、これらの活動から得られた知見をもとに、「宇部市発の水害防災モデル」を全国に波及することを目指している。

この他、防災の専門家による講演会・セミナーを開催し、延べ約900人が参加し、非常に好評であった。また、同大学大学院を修了した海外研究者と防災・環境に関する国際会議を開催し、国際的な防災研究のネットワークを構築した。さらに、市民のエコ活動における防災意識を高める展示や県内小学校の大雨避難計画への助言を行った。今後も、地域基幹大学の使命として、県内におけるシームレスな防災支援活動をリードしていく。

医療・介護施設の水害タイムライン策定支援

市民エコ活動において避難場所を確認する防災学習の様子


宮崎大学

小・中学校で実践するレジリエンス向上プログラムの開発・実証

宮崎大学教育学研究科教職実践開発専攻(教職大学院)の生徒指導・教育相談分野では、小学校・中学校の予防・開発的な生徒指導の一環として、SST(ソーシャル・スキル・トレーニング)や抑うつ予防プログラムの実践研究を行ってきた。その資産を継承し、学校の教室で実践する「レジリエンス向上プログラム」の開発研究を進めている。

先行研究によると、レジリエンスはいくつかの心のはたらきの特性に分けてみることができる。そのうちの一部はトレーニング等によって改善するが、簡単には改善しないものもあるとされる。

また、小学校高学年の児童や中学校の生徒のレジリエンスは、①周りとのバランスをとって事態を判断する「俯瞰力」、②問題自体を捉え解決策を考え選んでいく「問題解決志向」、③周囲の支援を取り込む「援助要請」、④物事を楽観的に捉える「楽観性」の4 因子から評価できるという。 宮崎大学では、各学校の発達段階に見合った介入授業を構成し、その効果検証を実施。小・中学校それぞれにおいて、介入群と統制群との比較で有意な介入効果を見出している。今後、さらに効果の高い構成を目指して改善を進めていく方針である。

少子化が続き先の読めない数十年後、社会の中核となり支えていく児童・生徒を対象に、変化に伴う様々なストレス事態を乗り越えしなやかに生きる力の育成を目指す同大学。期待される成果は、明るい未来そのものである。

「レジリエンス向上プログラム」のレクチャー風景

生徒が抱える問題を解決するための手順