国立大学教官等の定員削減計画に関する要望書

平成12年6月16日
国立大学協会会長
 蓮 實  重 彦

 政府においては,平成13年以降10年間にわたる国家公務員定員削減計画を立案中の由,仄聞いたしております。
 国立大学協会は,昭和43年度以降実施されているこの政府の計画が,国民の望む小さい政府と厳しい財政事情の再建を目指す止むを得ない措置であることを十分に理解しつつも,国立大学教職員については,その職務の特殊性にかんがみ,定員削減の対象から除外する等の措置を図られるよう一貫して強く要望してまいりました。関係当局が,今日まで国立大学の重要な使命について理解され,国立大学の教官等については定員削減の対象から除外し,また削減率を減少していただきましたことに対し,深く感謝する次第であります。
 国立大学は,我が国の学術研究の中心として,国民や社会の様々な要請に応じて人材を育成し,また常に進展し流動する世界の学術研究の中にあって,その創造と発展に寄与し,我が国の経済社会の発展と国民生活や文化の向上等にも大きく寄与してきております。国立大学における教官定員は,学部・大学院の入学定員等に対して必要な数がそれぞれの教育研究分野の必要に応じて専門分化した講座・学科目・部門等に配置されております。この講座・学科目・部門等は学問分野を分担するものとして構造的,体系的に配列されており,その各講座等は教授以下の全教官,支援職員が一体となって斯学の教育研究に当たっており,単純な縮減・合理化にはなじまないものであります。
 さらに,近年の大学を巡る環境の大きな変化及び社会の関心の一つに教育研究支援体制の問題があります。
 我が国の学術,科学技術の発展のためには,国立大学の教育研究の発展が必要であり,そのためには教官はもとより,教務,技術,図書,医療,海事等に従事する教育研究支援職員の協力は必要不可欠であります。
 そもそも,教育研究支援とは,教室系技術職員等による教育研究に対する直接的な支援から,事務職員等による図書業務,教務事務,管理的事務までの広範な内容を含んでおります。それは単に教育研究を補助するというものではなく,大学が大学であるための必須の基盤であり,技術職員等による研究実験用設備・機器の開発,実験・演習に対する支援やより高度化・複雑化した研究施設・実験設備の管理,実験装置使用法の指導,実験上の安全管理など教育研究に対する直接的な支援業務以外に,主として事務官が扱う教務事務,図書・情報サービス,教育研究資料の整理・保管,学外研究機関との連絡,研究費申請事務や研究費管理なども教育研究支援業務に含まれます。極言すれば,大学におけるほとんどすべての組織は,直接あるいは間接に教育研究を支援するためのものであります。
 技術職員が定員削減により補充できないことは,何より研究者の活動を阻害し,教育上においても実験実習の実施を困難にし,ひいては,学生の理系離れの遠因ともなり国家の大きな損失ともなります。独創的な研究は,しばしば独自の実験器具・装置の開発・作製を必要としますが,こうした技術職員の消滅,特に若手技術職員の消滅は,教育研究組織の老齢化をもたらし,大学における特殊な技術の次世代への継承を不可能ならしめ技術の断絶を招くものであり,ハイテク技術の開発に支障をきたすなど日本の技術の将来に影響を及ぼしかねないものであります。これらの支援職員について定員削減が実施され続けられれば,極めて憂慮すべき事態となります。また,看護婦定員についても現場での必要数を大幅に下回っており,現在の看護体制は極めて深刻な状況にあります。
 現在,国立大学は学問の進展や社会の変化に対応し,戦後最大の大学改革を進めており,大学院の充実,学部,学科の改組をはじめとした教育研究体制の見直し,カリキュラムや教育方法の改善充実,生涯学習機能の強化等に積極的に取り組んでいるところであります。
また,行政改革会議最終報告等の指摘に沿って,運営諮問会議の設置等管理運営体制の見直し,情報公開,第三者評価等にも前向きに取り組んでおります。
 一方,従来の厳しい定員抑制のもとで,学問・研究の発展に対応した分野増や社会の強い要請による対応についても,大講座化の導入やスクラップ・アンド・ビルドによる改組・転換等の措置により対処してまいりました。さらに,事務の簡素化・合理化,職員の能力向上,勤務能率の向上等にも努力してまいるなど定員削減の実施には最大限の協力をしてまいりました。特に,大学入試,留学生,研究協力,国際交流の業務の大幅な増大に対処するため,各学部,学科等の人員を本部等に集中させるとともに業務を一元化して合理的に処理するための体制を整備する等の措置を講じてきております。
 しかし,30有余年にわたる定員削減により,このような努力ももはやその限界に達していると言わざるを得ません。今後さらに定員を削減することになれば,社会からの期待に応え,今後の我が国の発展を支える学術研究や人材養成の継続的実施は極めて困難になると私どもは判断しております。
 以上,国立大学協会は,関係当局に対し,国立大学の意義・役割及び国立大学教職員の職務の特殊性等を御勘案・御理解いただきたく,下記の諸点について強く要望いたします。



1.  教官及び看護婦については,削減の対象母数から除外されたい。
2.  教育・研究の遂行に欠くことのできない教育研究支援職員のみならず,事務系職員についても教育研究支援職員として明確に位置付けて教官に準ずる御配慮を願いたい。

(要望先:総務庁長官,総務庁行政管理局長,自由民主党幹事長,
 政務調査会長,文教部会長,文部大臣,文部事務次官)