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国立の教員養成系大学・学部が直面する諸課題と今後果たすべき役割について
標記懇談会が、報告書において、国立の教員養成系大学・学部が直面する諸課題を整理し、今後果たすべき役割を具体的に提示したことは重要なことである。
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再編・統合の進め方について
報告書は、また、今後の国立の教員養成系大学・学部の組織・体制の在り方について、教員養成の専門学部としての性格を明確にし、学部の組織機能を充実強化する観点から、都道府県域を越えた教員養成系大学・学部の再編・統合を提言している。教員養成の組織機能の充実強化を図ることは重要である。しかし、県域を越えた大学・学部の再編・統合は、わが国ではこれまで全く未経験の施策であり、教員養成系学部を含む大学全体の在り方に関わるだけでなく、都道府県単位の初等中等教育にも大きな影響を及ぼすものであるだけに、大学と地域社会全体に大きな混乱を引き起こすおそれがある。新学習指導要領の実施によって、地域に根ざした教育が一層求められるが、その教育ができる教員の養成は各県においてなされるのが望ましい。再編・統合を機械的に推進することなく、各都道府県の教育委員会や教育界などとも協議しながら、慎重に進められることが望まれる。
個別大学・学部による立案検討は当然のことであるが、再編・統合の方策や支援措置、 再編・統合後の大学・学部の形態、再編・統合に伴う個別の計画とその後の影響などについて、事前評価(アセスメント)を行いながら進めるべきであると考える。
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地域・大学の事情及び各大学の自主性・自発性の尊重について
報告書は、「再編・統合の基本的な考え方」において、再編・統合に当たっては、「特 定の地域の偏在を避け、全国的にバランスのとれた養成体制になるよう考慮する必要がある」と述べているが、これは極めて重要な観点であると考える。
再編・統合の具体化を図る場合にも、再編・統合や大学・学部の数の縮小等がそれ自体目的化され、一律に決定されるようなことがあってはならず、あくまでも各地域における教員養成機能や現職教員の再教育機能の必要性、及び各地域における個別大学の諸事情に即して、各大学・学部の自主的改革として具体化が図られる必要があると考える。
国立大学協会は、各大学が「再編・統合」の問題について検討する際の参考資料として、すでに「国立大学の再編・統合等について」(平成13年11月 国立大学協会理事会)をまとめており、その冒頭において「再編・統合は、それぞれの大学の将来展望の中で、大学の自発性、自主性に基づいて進められなければならない」と述べている。文部科学省もまた、「大学(国立大学)の構造改革の方針について」(平成13年11月
文部科学省高等教育局)において、「再編・統合の目的が各大学の教育や研究等の発展と基盤強化にあることから、まず各国立大学において、各々の将来の発展という視点から、また、更なる活性化の好機として、幅広く検討がなされることが肝要」という「再編・統合の進め方の基本認識」を示している。本委員会としても、あらためてこの点の重要性を強調しておきたい。
上記基本認識からすれば、再編・統合は、近隣の複数の都道府県を単位とする教員養成系大学・学部間での再編・統合だけに限定されることなく、個別大学内で教員養成系学部が他学部と再編・統合して個性的な大学づくりを行うケース等を含めて、各大学の充実に資する再編構想が重視されることを要望する。
同時に、いずれの形態をとるにしても、再編・統合の具体化を進めていく際のプロセスが最大限透明になるようにすることも大切であると考える。
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新課程の取り扱いについて
再編・統合の具体化を図る場合に、教員養成系学部におけるいわゆる「新課程」の取り扱いが大きな課題の一つになる。
教員養成系大学・学部の「新課程」に関しては、本年6月に提出した本委員会の意見書でも述べたとおり、設置以降、その政策的位置づけに一貫性が感じられないままに推移し、必要な教員定数や施設・設備の整備も不十分なまま今日に至っている。そうした条件のなかで、教員養成系大学・学部は、自らの努力によって地域や所属学生たちのニーズに応えてきたし、本委員会が先に懇談会に提出した「新課程に関する学生・教員・機関調査結果(速報値)」が示すように、そこに学ぶ学生たちの専門志向や満足度は高く、学んだ結果身に付いた力の自己評価も高いことも明らかとなっている。また、大学・学部の機関としての判断や多くの担当教員の判断も、「学校教育以外の分野における教育指導者養成」、「学際的分野の人材養成」や「幅広い教養を持つ人材養成」の機能を持つ課程として、あるいは「他学部にはない専門領域の専攻」や「地域における生涯学習の拠点」として発展させていくことを望んでいる。
これらの努力と成果と意欲を今後どのような形で継承・発展・充実させていくのかは一つの重要な問題である。各大学・学部や地域の事情に応じて、存置充実などの方向性も含め多様な可能性を閉ざすことなく、各大学・学部での議論を積み重ねていく必要がある。
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教員養成カリキュラム及び教員養成学部の教員の在り方について
今後教員養成機能を充実させていく上で、報告書II−1−(2)「教員養成カリキュ ラムの在り方」や1−(5)「教員養成学部の教員の在り方」で述べられている内容は極めて重要であると考える。それらの諸点に関しては、すでに本年6月に提出した本委員会の意見書でも述べたところであるが、さらに重ねて次のような要望を申し述べておきたい。
(1)「教員養成カリキュラムの在り方」に関しては、報告書でも述べられているように、今後「モデル的な教員養成カリキュラムを作成すること」は重要であると思われる。しかし、それはあくまでも「モデル」でなければならず、各大学・学部の個性ある教員養成を実現していく上でも、「各大学はそれら[モデル的な教員養成カリキュラム]を参考にしながら、自らの学部における特色ある教員養成カリキュラムを作成していくことが求められる」(p.
13)のであり、今後の教員養成カリキュラムの作成に当たっては、この原則が貫かれるべきである。教員養成系大学・学部のカリキュラムは画一的であると言われるが、個性的な教員養成カリキュラムを促進するためには、教育職員免許法の見直し、あるいは免許基準の弾力化が必要であることを指摘しておきたい。
また、制度として提供する体系的なカリキュラムの履修と同時に、サークル活動等、カリキュラム外の学生の自主的自治的諸活動が教員に必要な資質を育てるということも、今後教員養成機能の充実を図っていく上で考慮されねばならないことをあらためて申し添えておきたい。
(2)「教員養成学部の教員の在り方」に関しては、報告書の中で「教員を採用する際、教員免許状の取得や学校現場における何らかの教育経験を有することを条件とすることも考えられる。また、必要に応じて採用後も附属学校の授業の担当等を通じて、学校現場との接触を保持していくような取組みも推進していくべきである」(p.
20)と述べられているが、これらに関しては各大学・学部のファカルティ・ディベロップメントの議論と推進に委ねられるべき事柄であり、一律に具体化を迫ることは適切ではないと考える。
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大学院の在り方について
今後の教員養成系大学・学部の果たすべき役割を考える上で、大学院の役割は重要である。報告書では、II−2「大学院の在り方」でさまざまな観点が提起されており、今後具体化を図っていく必要があると考える。しかし未だ十分に議論が煮詰められていない点が種々みられ、再編・統合後の充実した姿が具体的に見えにくい。例えば、教育職員養成審議会第2次答申(平成10年10月)は、「一つの試算例」であるとしながらも、「平成13年度当初からその10年後の平成22年度末までの間に対象者の15〜25%が修士の学位又は専修免許状を取得するものとした場合、この10年間の前半5年間で平均5,000〜9,000人、後半5年間で毎年平均8,000〜13,000人程度と試算される」と計画的・重点的に修士レベルの教育機会を提供することを検討事項として明記している。しかし、今回の再編・統合策がその目標達成にどう対応するのかは見えない。
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教員養成担当大学と一般大学の教員養成機能と現職教員の再教育機能について
教員養成系大学・学部の再編・統合に連動して生じる問題としては、再編・統合後に教員養成担当大学ではなくなった大学における教員養成機能の問題や、教員養成担当大学を持たなくなった地域における教員養成と現職教員の再教育・研修機能の問題も重要である。
開放制の下では、教員養成系大学・学部でなくとも、課程認定を受けた大学・学部は教員養成に責任を持つのであり、再編・統合後、一般大学となった国立大学も引き続き地域の教員養成に一定の責任を負い、教員養成担当大学となった大学は県域を越えて教員養成に新たな責任を負う関係が生じると考えるべきである。現在でも、国立大学の文学部系や理学部系などの一般学部においては、中学校・高等学校教員の養成機能は大きな位置を占め、役割を果たしてきている。公教育の水準確保にとって、優れた学力・資質を有する教員の確保は極めて重要な課題である。報告書では、再編・統合に伴い一般大学となる大学・学部は「教員養成担当大学とも協力し、例えば教職センター(仮称)などの組織を、過大な規模にならないように留意しながら、整備することも考えられる」(p.
30)と述べられているが、規模を含めてそうした組織の具体的な姿を提示すべきである。
報告書は、また、「教員養成担当大学は一般大学と協力し、教員養成学部がなくなる都道府県を含め、養成・採用・研修の各段階において教育委員会との連携を図りつつ、様々な工夫を凝らし、その体制を整備する必要がある」「再編・統合により教員養成学部がなくなる都道府県の現職教員も視野に入れ、カリキュラム開発を含め、現職教員の受け入れ体制の整備を図る必要がある」(pp.
29-30)と述べ、現職教員への対応については、さらに「できるだけ現職教員の学修の機会の確保に努めることとし、特に教員養成学部がなくなる都道府県においては、教員養成担当大学のサテライト教室の開設や遠隔教育の充実等体制の整備を図っていくことが必要である」(p.
30)としている。学校現場でさまざまな教育問題が生起している今日、現職教員の再教育の機会は今後ますます重要になる。しかし、サテライト教室や遠隔教育だけで現職教員への対応が可能であるとは考えられない。居住する地域によって現職教員が大学院に学ぶ機会に極端な不平等が生じることのないよう、現実的な具体的方策を示すべきである。
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附属学校の在り方について
教員養成系大学・学部の再編・統合に連動して、附属学校園の在り方も今後重要な問題である。特に「同一学校種複数学校等、附属学校の規模の見直し」(p. 32)や、「再編・統合に伴い一般大学となる大学・学部の附属学校の取り扱い」(p.
34)は、附属学校園が大学・学部ともども地域の教育水準の維持・向上に大きな役割を果たしてきたことを考えるならば、地域の諸事情を無視した一律な取り扱いはできないと考える。また、報告書の中には「独立採算制の学校」というような方向性も示されているが、このような表現では内容が不明確なままイメージだけが一人歩きしてしまいかねない。
また、報告書は、非教員養成大学・学部の附属学校について、「大学設置基準上、設置が義務づけられているものではなく」、「実験的、先導的な教育課題への対応等、国立の附属学校として取り組むことが必要で、当該大学として教育研究上真に必要とされる場合は、存続させることが適当であるが、その必要性が認められない場合は、段階的に地方移管や廃止等の方向で検討することが適当である」と述べている。非教員養成大学・学部の附属学校が、時代によりその任務を変えていかなければならないことは確かであるが、それぞれ必要があって設置が認められてきたものであり、特色のある学校が多く、教員養成大学・学部の附属学校とは異なる全国的視野からわが国の今後の教育の在り方を探る上で重要である。「真に必要な場合」というあいまいな表現になっているが、むしろ本来の教育研究を推進するよう促す方向で変革を求めるべきであると考える。
今後、各大学・学部は附属学校園とともにその性格づけと果たすべき役割などを検討することが求められるが、それら各大学・学部の検討結果を尊重しながら、取り扱いの具体化を図ることが必要である。
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学部の適正規模及び教員配置基準等について
再編・統合後の教員養成系大学・学部が充実し、活力を備えた組織・体制になるかどうかは最も重要な点であると考える。しかし、報告書のIII−2−(3)「再編・統合後の基本的な枠組み」において提示された内容からは、その点を十分に読み取ることができない。
例えば、教員養成系大学・学部の教員配置基準は、曖昧な部分もあるが、大学院の最低基準では95であり、多くの学部ではそれを若干上回る程度である。仮にこうした学部が2つ統合しても、学生定員に伴う加配要素がないため、統合後の学部の最低必要教員数は変わらず、どの程度の教員数を配置することが可能であるのかが、全く説明されていない。大学院の基準は最低に過ぎず、教員養成系学部の審査内規も教育職員免許法に対応して最低教員数を定めるものである。充実した教員組織は最低基準だけでは構築できない。再編・統合後の教員組織や教員数、及びその根拠を明確にしないまま再編・統合しても、財務当局に対する論証力に欠けると言わざるを得ない。新課程を当該大学の充実に資するよう再編し、そのために必要な教員を振り替えることも提案されていることと併せ考えるならば、再編・統合は教員養成系大学・学部の大幅なスリム化と他学部への教員移動方策をもたらすものと危惧せざるを得ないのである。
教員養成系大学・学部の組織として、どのような形態、規模が相応しいのか、科学的研究の裏づけに立った学部適正規模の検討を行い、学生定員と教員組織に関する具体的な基準を確立することが必要であると考える。また、そのために、大学院固有の教員の定員配置、あるいは学部・大学院を合わせた学生規模に対応した教員の定員配置、教育職員免許法と教員配置との関連など、教員養成を規定する諸制度についても具体的な検討が必要であると考える。
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教職員の移動について
報告書で提起されている再編・統合に伴って、大学・学部教職員の移動も大きな問題となる可能性が高いと思われる。その場合、個々の教職員に不利益が生じないように配慮することが必要である。その意味からしても、今回の教員養成系大学・学部の再編・統合問題は、今後各大学内において議論を丁寧かつ慎重に行うとともに、それら各大学における議論の結果を尊重することを基本に据えて具体化が図られるよう重ねて要望しておきたい。
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