第2部 提言の解説

3. 個別大学入試の改善

(1) 一般選抜の基本的な考え方

 国立大学は、各大学・学部の独自のアイデンティティを強固なものにし、個性化を図ることが、少子化時代における大学入学志願者に興味や関心を喚起させる基本である。入試改善の考え方においても、試験方法の改良のみに腐心するのではなく、どのような教育を実践しているかという視点で社会からの評価を受けられるような状況を、大学自らが創り出していくことが今日の課題である。
 個別大学入試では、志願者の専門的な適性・能力を評価するため、現在、筆記による学科試験のほか、小論文、実技、面接などを通し、大学での学習に必要な知識と技能、さらにその基本となる論理的思考力、理解力、表現力などの測定が実施されている。これらの一層の改善が望まれることはもとよりであるが、単に入学定員を確保するなどの目的から試験方法の安易な多様化が進められてはならない。各大学・学部は自ら確固たるアドミッション・ポリシーを定め、それぞれが求める学生像にふさわしい入学者選抜方法の工夫・改善に一層努めなければならない。
 大学審議会の答申にも述べられているとおり、大学においては、今後、それぞれの特色を活かして多様なタイプへの役割分化が進むと予想される。各大学・学部は特色あるアドミッション・ポリシーを確立し、それを分かりやすい言葉で表現し、大学入学志願者や社会に知ってもらうことが肝要である。ここで改めて強調すべきことは、各大学・学部が評価尺度の多元化に対応して評価方法を確立しておくことである。また、少子化時代に突入した現在、国立大学の入学者選抜のあり方として、大学教育を受ける資質に欠けると判断される場合には、安易に定員充足を図るべきではないと考える。
 なお、国立大学の入試情報開示に関する基本的な考え方については、すでに公表したとおりである。当然のことであるが、説明責任の励行や選抜基準などの透明性の確保に努めることが、広く社会からの支援と信頼を得る意味で重要である。

(2) 個別学力検査の新しい評価方法の開発

 センター試験は基礎知識などを問う多肢選択式の筆記試験であることから、個別大学入試では、センター試験では測ることが困難な思考力、表現力等を評価できる出題内容をいかに選抜プログラムの中に構成するか、一層の努力を傾注しなければならない。また、教科科目横断型の総合的な問題などの導入も、新たな観点からの受験生の評価に有効であると考えられることから、個別大学入試において積極的に導入する方向で調査研究が進められることが望ましい。合わせて、面接、小論文、口述試験などのやり方・評価の方法、学科試験と学科試験以外の評価の重みづけ等においても、一層の検討が深められるよう期待したい。

 提言3.1
 リスニングテスト、総合試験など、個別学力検査の新しい評価方法の開発、実施に積極的にとりくむ。

 外国語(とくに英語)のリスニングテストを望む声は高校、大学の双方に高く、大学審議会の中間まとめの提案も、それを反映したものと理解できる。しかしながら、センター試験のような大規模テストで、全国同時にリスニングテストを実施することは技術的にきわめてむずかしいとされている。しかしながら、各大学・学部が必要に応じてリスニングテストを課すことは積極的に奨励されるべきことであり、施設・設備等の条件が整わない大学・学部にあっては、外部の専門検定機関が実施する試験を利用することなども検討されてよい。
 個別試験では、特色あるアドミッション・ポリシーに基づいて出題が準備されれば、同じ教科科目を課しても、それぞれの学部・学科によって志願者への問い方も異なることもあろうし、また、異なる評価結果を単に加算する方式以外にも、新しい合否判定方式が工夫されてもよい。多様な評価を得点という形で表示する限り、1点刻みの合否判定にならざるを得ないが、選抜作業は本来得点順に席次を並べればよいということではないはずであり、当該学部・学科の大学教育を受けるにふさわしい能力や適性等を有しているか否かの判定を下すことが優先されなければならない。

(3) 前期・後期日程の募集人員の配分、大くくり化

 前期日程と後期日程の募集人員の適正な配分については大学・学部により、その事情が異なるが、後期日程の募集人員を拡大しにくい理由のひとつは、後期日程では面接や小論文を課す選抜方法を採用していることが多く、その実施場所や日程あるいは入試業務量などを考慮すると、後期日程の募集人員を容易には増加し難いこと、さらに後期日程には、前期日程からの敗者復活組のチャレンジが多く、募集人員の増加が結果的に選抜の妥当性を弱める懸念もあることなどによる。
 前期・後期制度の存続を含めて、いろいろな意見があるところであるが、受験機会の複数化に寄与していること、後期日程では前期日程とは異なる視点からの選抜方式を採用していることなど、その趣旨を活かし、より有効に機能させるうえでも、前期・後期の定員比率の見直しについては、各大学・学部の自主的な判断としてその適正化を実現するよう求めたい。 
 また、募集定員の大くくり化については、18歳という年齢が細分化された専門学部・学科を選択させる時期として望ましいかどうか、学生の成熟度、専門分野に対する知識理解からみても、検討の余地がある。現実に、入学後に学習不適応をおこし進路変更を希望する学生も最近少なくない。学生の理解と成長を待って、あせらずに進路選択の機会を与えられるという点では、定員の大くくり化は魅力的である。しかし、学部・学科の立場からすれば、早めに進路が定まっていることを望む声が強く、定員の大くくり化には総論賛成各論反対的でなかなか実現に結びつかない事情がある。

 提言3.2
 入学定員の一部について、専攻を定めない募集単位を設け、学際的な新しい学部教育の可能性を開くとともに、大学進学の際に、未だ進路決定に至っていないような学生に対しても、入学後に適切な選択が行えるような教育課程、制度上の工夫を講じる。

 仮に、募集段階で入学定員の一部を、専門分野を定めずに入学者選抜を行うことにすれば、弾力性に富んだ学部横断的な教育プログラムを提供する新しい試みになると同時に、入学後に転学部・転学科を希望する学生の受け皿として、また学生の健全な流動化を促進するバッファーとして効果的に活用できると考えられる。

(4) 推薦入学およびアドミッションズ・オフィス(AO)入試のめざす方向
 特別選抜としての推薦入学やAO入試を実施する大学が増加している。これらの入試はいずれも、学んだ力(知識・技能等)、学ぶ力(意欲や関心等)に加えて、志願者の個性や学習歴にも注目した入学者選抜であり、従来の筆記中心の試験とは異なる観点からの総合的な評価方法として関心を集めている。特に、AO入試は高等学校長等の推薦を必要としない自己(公募)推薦入試のひとつでもあり、アドミッション・センターなど、入試担当の教員と事務職員、また当該学部の協力により、時間をかけた、より丁寧な選抜が行われることが期待されている。
 
 提言3.3 
 推薦入学、AO入試等の特別選抜においては、その趣旨からいって、とかく学力評価が疎かになりがちな面があるが、さまざまな方法を工夫して基礎的な学力評価を重視するよう努める。必要に応じて、センター試験の利用等も考慮する。

 学力試験偏重の是正という趣旨ではじまった推薦入学であるが、時期がたつにつれて、その理念がやや形骸化し、学力評価を軽視する風潮が広がったとの評価もある。推薦入学(あるいはAO入試)に関しても、大学教育には、その前提となる基礎学力が不可欠であり、また元来、個性というものは基礎学力のうえに展開するものでもある。したがって、一般選抜と同様、推薦入学やAO入試においても、必要要件たる基礎知識を問うためにセンター試験が利用されることがあってよい。勿論、大学によってはこれらの特別選抜にはセンター試験を課さない立場をとることもある。そのような場合であっても、学力の下限設定を出願要件として提示したり、選抜プロセスの中で基礎学力評価の要素を組み入れるなどの創意工夫が必要であろう。
 入学定員に占める特別選抜枠の割合については、国立大学の定めるガイドラインに準拠した決定が望ましいが、この件に関しては当該大学・学部の責任によって定めるのが適当であろう。しかし、特別選抜が過剰な割合を占めることは、その趣旨を損なうものであり、適正な規模での実施を望みたい。なお、大学審議会答申にも指摘されているように、これらの入試選抜方式が学生の早期確保のための青田買いにならぬよう十分留意すべきである。 
 推薦入学やAO入試においては合格発表から入学までの期間が、通常数ヶ月に亘っていることが少なくない。このような場合には、この間に入学予定者が自己を見失っていたずらに時を過ごすことなく、目的をもって充実した日々を送るべく、大学側から合格者に対して何らかの適当な教育的指導を行うことが望まれる。

(5) 帰国子女、社会人特別選抜、専門高校・総合学科卒業生選抜

 開かれた大学の一層の推進や多様な可能性を備えた学生が相互に切磋琢磨する学習環境を構築する観点から、帰国子女選抜や専門高校・総合学科卒業生選抜などの特別選抜を実施する国立大学が増えている。これらの実施にあたっては、一般選抜などの志願者とは異なる学習履歴と特性を有することから、特別の配慮をした選抜基準を明確に定めておくことはもちろん、入学後の教育との関連を十分に踏まえたうえでの入試の工夫や改善を積極的に進めることが必要と考える。そのため、彼らの才能を活かしうる広い可能性が開けるような教育プログラムを準備しておくことが、本制度の存在意義を高めることにもなる。帰国子女選抜の試験期日については、現在大学間で異なっているが、入試日程を調整すべきかどうか、大学間で協議する必要がある。また、衛生看護学科や福祉に関する学科の卒業生に対しても同様の取り組みをなすことが望ましい。
 一方、大学の果たすべき役割として高校新卒者を受け入れるという教育的役割だけでなく、編入学、学士入学の機会を拡大すること、また、生涯にわたりいつの時期にも大学教育を享受できるという機会を用意していることが、真の大学ユニバーサル化を実現する道である。すでに1986年の臨時教育審議会で「生涯学習化体系への移行」が答申されているところであるが、一度社会に出て、社会人としての経験を積んだ人々を学部学生として受け入れる特別選抜制度はもっと積極的に導入されてよい。多様な学習経験や社会経験を有する者が、混じりあった環境の中で学生が切磋琢磨されることは教育にとって得がたい環境ともなる。国立大学ではこうした学部段階での社会人受け入れがまだ少ないが、生涯学習化社会にふさわしい大学教育を今後、さらに探求していくうえで、社会人入学制度を促進することはぜひとも必要な施策である。
 このことにより、期待される人材の育成を図る上での適性のある者のより適切な選考を可能ならしめるのみならず、方向転換ができる社会構造を創り出す方向に振り向けることができよう。また、学部間、大学間あるいは大学院においても学生の柔軟な移動を誘起されることも十分期待される。

(6)  入試実施体制等の整備について
 現在、国立大学においては学部入試、大学院入試を合わせて、10種類以上の選抜試験が行われている。その業務量は教員、事務職員ともに上限に達しており、その合理化、専門化が求められている。他方、センター試験への依存の拡大、大学教養部の解体や入試問題の総量が急増したことなどにより、最近、教官の問題作成能力が落ち、質的な低下がみられると心配されている。入試問題の作成は、教育責任を負うものが自らの教育理念に基づいて問題作成を行い、出題するのが原則である。しかし現状では、小規模大学等の中で、科目によっては試験問題を作成するためのスタッフを揃えること自体が困難な大学もある。
 
 提言3.4
 増加する入試業務に対処するため、関係教職員の増員を含め、組織的整備を図る。また、教員に対してはFD(ファカルティ・デベロップメント)の一環として、問題作成、面接技法、評価測定等の研修を行うことも検討する。

 問題作成も教官の教育力を示す重要な側面のひとつであり、面接試験官としての力量を高めていくとともに、事務官、教官を含めて、大学入試に専門性を有する人材の育成が緊急の課題である。現在、授業改善を目標にして、ファカルティ・デベロップメント(FD)に取り組む大学が増えているが、入学試験に係る教育的トレーニングを、ファカルティ・デベロップメント活動に組み入れて、それらの向上を図るのも一つの方策であろう。
 受験生の多様な能力・適性等をきめ細かく評価することにエネルギーを注ぐことこそが、入試改善の基本であろうと思われる。このことが、入試業務の負担面や運営上の能率論から推進しえなくなることがあってはならない。しかし、現実的には入試機会の複数化とその多様化にともなって、現在、教員のみならず事務職員の入試業務に費やす時間と労力の負担は極めて大きい。アドミッション・センターの設置などをはじめ、適切な予算措置による人的・経済的支援の早期整備が強く望まれる。しかし何より、大学教員が入試業務を単なる雑用だとする感覚を捨て、自らの手で次代を担うであろう人材を選抜できる重責を担っているのだという意識変革が必要である。それと同時に、入試業務に携わることへ正当な教育的評価を与える仕組みを、支援システムとして実現するべきである。

(7)  大学入試センターによる個別学力検査への支援と協力

 提言3.5
 個別大学入試の改善のため、複数の大学による問題作成の協力等、試験の準備、実施に関して新しい体制づくりが必要とされている。この実現に向けて、大学入試センターの協力・支援を要請したい。

 入学者選抜に係る実施体制、出題・採点体制や管理体制等の抜本的な改善対策は、個々の大学が個別に対応していけるほど単純ではなくなってきている。それらの方策について、各大学が一層連携協力を図って調査研究を行い、その成果を共有して具体的な手段を講じることが重要である。大学審議会の答申にも提言されているように、それと併行して、各大学が実施する個別試験を諸々の面で強力に支援する体制を大学入試センター内に築いてもらうよう求めたい。例えば、個別試験で行われる学科試験の特定科目について、大学入試センターの協力の下で複数の大学(学部)が共同して作題にあたり、それを共通利用していくという連合大学方式を導入するなど、早急に検討したい方策である。

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