64号 Challenge!国立大学 特集【地域の中核となる大学】
北海道教育大学
学校規模縮小化に対応した教員養成と教員研修を推進する
全国教育拠点を目指して
北海道教育大学へき地・小規模校教育研究センター(以下、へき研センター)は、これまで約70年にわたり、日本のへき地・小規模校教育研究を牽引してきた。
現在、複式学級を有する小学校の割合は全国で13%、児童生徒数が100人以下の小規模校の割合は47%となっている。この複式・小規模状況に対応できる教員の養成と研修の機会を提供するため、へき研センターでは4つの柱による事業を展開することで、へき地校及び小規模校の教育水準を向上させ、以て過疎地等の地域創生に寄与している。
最近は「令和の日本型学校教育」に留意し、小規模校教育が本来的に持っている良さ(教師と子どもの緊密な関係性を活かした個に応じた教育と異学年の協働的な学び)を「遠隔双方向システムによる他校との交流授業を通した多様な見方・考え方の育成と、教師の授業改善への気づきを促す研修」に対応させるプログラムの開発を進め、更には、国際的評価が極めて高い本学のへき地教育指導法を開発途上国へ提供して実地指導することにより、SDGs(目標4「質の高い教育をみんなに」)に貢献している。
東京藝術大学
ヤギを中心にした多様な人との共生
~創発の場としての「透明なアーツセンター」
本企画は東京藝術大学取手キャンパスで飼育している二頭のヤギとともに「透明なアーツセンター」を運営している。キャンパスは郊外にあり、良くいえば自然豊かな里山、悪くいえば不便で整備の行き届かない藪と雑木だらけのサテライトキャンパスだ。
2020年から始動したこの「ヤギの目」プロジェクトは、地域の人に開かれ活動を共にするという趣旨のもと、現在、学生や教職員はじめ地域住民などの多様な立場や世代の60名弱のメンバーによって構成されている。準備期間はメンバーで学内の雑木林や藪を切り開き、キャンパスに自生する植物を利用したヤギ小屋や柵の制作から始まった。
持続可能な環境をいかに創出するのか。ヤギが来てからは飼育をベースにして、虫除けに効くドクダミチンキの制作、ヤギのフンを利用した絵の具やクレヨンの開発、ヤギのフンを肥料とした菜園もつくっている。そして「ヤギの目」の活動から着想を得た作品による展覧会の開催をした。
これらの外的な活動成果だけでなく、個人の内的な経験や思考も含めて、ヤギを中心にして持続していく活動の総体を場として捉えたのが「透明なアーツセンター」だ。ここで生まれるコミュニケーションは共生社会に生きる実践的トレーニングでもあり、そこで個々人が得たものをそれぞれの別のコミュニティに持ち帰ることで拡張してゆく。
左下写真:高橋マナミ
上越教育大学
教員研修連携プラットフォームの構築を目指して
上越教育大学では、学び続ける教員を支援するために地域の教育課題に対応した様々な教員研修を企画・実施するとともに、地域の要請等に応じて無償の講師派遣を実施しており、令和3年度には、教員研修や無償の講師派遣を延べ257回実施し、4,214人が受講した。
教員研修の企画に当たっては、教育委員会と連携・協働して内容の充実を図り、研修課題等に応じて多様な形態を採用することにより、高い研修効果が得られるよう工夫している。例えば、オンラインによる拡散型教員研修「J-SOTTプログラム」やオンラインと対面のハイブリッド型による「通級指導担当教員研修」、研修拠点校方式による「道徳教育研修」、原則毎週水曜日に開催する「教職員のための自主セミナー」の他、長野県教育委員会との協働による「長野講座」等も実施している。
拡散型教員研修プログラム「J-SOTTプログラム」〔オンラインによる拡散型研修〕 大学・教育委員会・学校が三位一体となり、それぞれの強みや特徴を活かした拡散型の研修プログラムであり、教員のICT活用指導力を育成する研修の実施を通して、効果的・効率的な教員研修プログラムを教育委員会との協働により開発したものである。
今後、更に教育委員会や学校との連携・協働を強化し上越教育大学が中核となって、地域の教育課題解決に資する教員研修連携プラットホームの構築を目指している。
信州大学
信大クリスタル® 水都“ 信州” を目指したアクアプラス・エコシステム
信大クリスタルが提案する水問題のソリューション
信州大学が誇る材料科学。信大クリスタルとは、結晶育成技術フラックス法でつくる高機能な無機結晶材料の総称である。地球が育む鉱物や宝石等と同じメカニズムで結晶を育成する技術であり、環境、エネルギー、バイオ等のさまざまな分野で活躍する結晶を生み出している。フラックス法で世界を先導し、成果を地域産業に幅広く展開するために、「水都」信州の実現に向けて信州アクアプラス(エコシステム) を形成し、活動している。
信大クリスタル(重金属イオン吸着結晶) を搭載した携帯型浄水ボトル・パックの製品化や、地域のさまざまな企業の浄水器にも搭載し、地元の水を研ぎ澄ませて日本酒・クラフトビール・みそ等の特徴的な製品を創出している。さらにSDGsやゼロカーボンに関して、マイボトル専用のアクアスポッ
トを設置し、プラスチックごみ・ペットボトル生成や運搬のエネルギーを削減するため、市民や観光客を巻き込んだ活動として「swee“Shinshu water for ecology and environment”(スウィー)」を提案、長野県内多数の公共施設等へ展開している。
エネルギー分野等への発展
2022年、信大クリスタルに特化した研究拠点(ラボ)を設置し、活動の更なる展開を図る。また、信大クリスタル事業化のための信州大学発ベンチャー「ヴェルヌクリスタル株式会社」を設立。産学連携・社会実装の強力な体制を構築し、エネルギーや半導体分野の結晶材料の上市も開始している。
和歌山大学
地域と大学の『共創』の実現:紀伊半島価値共創基幹
“Kii-Plus”による地域の活性化と大学の機能強化
和歌山大学は、自治体や企業等との『共創』による地域連携のもと、和歌山県をはじめ紀伊半島の振興や発展を目指し、学長を基幹長とする「紀伊半島価値共創基幹(愛称:Kii-Plus)」を2020年に設置した。Kii-Plusでは、学外から地域連携統括役を登用し、地域の課題やニーズを大学の教育研究テーマとして取り込み、成果の社会実装と社会的インパクトを目指し、以下の取り組みを実践している。
◎ 地域との密なコミュニケーション「トップ対話」
和歌山県内30市町村・大阪府南部8市町村の首長と学長(基幹長)の「トップ対話」を進めている。その成果として、泉佐野市(大阪府)からの研究員派遣や由良町(和歌山県)でのビジネスプランコンテスト実施など機動的な連携が実現している。
◎ 地域ニーズを大学に持ち込み研究する「価値共創研究員」
和歌山県の災害ボランティアセンター所長を研究員として招き、学内に災害ボランティアステーション「むすぼら」を設立。2021年10月の和歌山市水管橋崩落による大規模断水では、研究員を通じた迅速な情報連携で、多くの学生ボランティアが活動し、地域の方々の手助けを行うなど、地域とのつながりも実現している。
◎ 研究成果の地域波及を目指す「社会実装教育研究プロジェクト」
地域と共創して課題解決を目指すプロジェクトを進めている。例えば「外国につながる子どもの教育支援プロジェクト」では、日本で生活する外国にルーツをもつ子どもに対する母語・日本語でのサポート方法等の研究を行い、その成果が和歌山市の行政施策に位置づけられたり、制作冊子や動画の活用が広がったりするなど、社会実装につながっている。
Kii-Plusの取り組みをさらに拡充することで、地域とパートナーシップを築き、地域と大学が共に成長する『共創』を実現していく。
給水支援ボランティアを行う学生
愛媛大学
県内各地に「地域密着型センター」を設置
-「地域における知の拠点」として様々な機能を発揮-
愛媛大学では、「地域に密着した中核機能」を発揮することを目的として、愛媛県及び県内全20市町と連携協力協定を締結するとともに、地域の特性・ニーズに応じて愛媛県内に「地域密着型センター」を設置している。地域密着型センターには、地域産業のイノベーションを目指す「地域産業特化型研究センター」、幅広く地域活性化に貢献する「地域協働型センター」という2つのタイプがある。
まず、地域産業特化型研究センターは、紙関連の産業クラスターがある四国中央市に「紙産業イノベーションセンター」を、海面養殖が盛んな愛南町に「南予水産研究センター」をそれぞれ設置し、研究(技術開発)と教育(人材育成)を一体化して行い、その地域の基幹産業の課題解決と担い手確保を図っている。
次に、地域協働型センターは、県内の東予・中予・南予地域に設置し、地域連携コーディネーターと多様な専門分野を有した多数の兼任教員が、地域の様々な課題解決に向けて地域ステークホルダーと協働で取り組んでいる。
このように、それぞれの地域の特性に応じたセンターをその地域に配置することで、愛媛県内全域で地域に密着した中核機能を発揮している。
長崎大学
最新の高度安全実験施設をもつ感染症研究の一大拠点として
新興感染症に備える
近年の気候変動や環境破壊により人類が新しい病原体と遭遇する機会が増加している。また、交通網の発達とグローバル化は、地球上のどこかで発生した感染症が
短期間で他地域に飛び火し、世界中で蔓延する危険性を高めている。COVID-19のパンデミックは、まさにそのような新興感染症の典型といえる。
古くから海外との交流が盛んであった長崎にある長崎大学では、熱帯医学研究所、大学院医歯薬学総合研究科、熱帯医学・グローバルヘルス研究科において、ウイルス、細菌、寄生虫、プリオンなど、様々な病原体による感染症の基礎研究や海外でのフィールドワークを進めてきた。
また、長崎大学病院は、一般診療科に加え、感染症内科、感染制御教育センターを有しており、致死率が高い一類感染症(エボラウイルス病など)対応のための病床をもつ第一種感染症指定医療機関にもなっている。このように、同大学は感染症の基礎研究、公衆衛生対策、臨床に力を注ぎ、これまで大きな成果を挙げてきた。
2021年夏には、一類感染症の病原体を安全に取り扱うことができる最先端の高度安全実験施設(BSL-4施設)が竣工し、すべての感染症に対応できる体制が整った。わが国唯一のスーツ型BSL-4施設を使って、基礎及び応用研究を行うことを目的とする高度感染症研究センターが2022年4月に発足し、共同利用・共同研究拠点として全国の感染症研究者を受け入れて研究を推進していく。
長崎大学では既に国内外の多くの学生や研究者が訪れて感染症研究に取り組んでいるが、BSL-4施設が加わることにより、感染症研究の一大拠点としてさらに発展し、様々な感染症の制御に貢献することが期待されている。
それにより、平和都市として知られる長崎が、感染症研究のメッカとしても世界中から注目を受けるようになることを願っている。
高度安全実験施設(BSL-4 施設)外観
長崎大学高度感染症研究センター
https://www.ccpid.nagasaki-u.ac.jp/
琉球大学
農業と水産業の垣根を取りはらった
サステイナブルな一次産業の構築を目指して
特色ある取り組み
琉球大学では、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)の本格型の採択を受けて、海の産業である養殖を陸の産業にする取り組みを進めている。
我が国や世界の食糧生産に関わる将来課題(人口増に伴う食糧不足、エネルギー供給の持続可能性等)を、農業と水産業の垣根を取りさった新産業で解決し、世界の若者が主役として食を育て提供する資源循環型共生社会の実現を目指している。
また、地域産業の活性化を図りつつ、沖縄の強みとなる地理的特性や文化的背景、アジア・太平洋へのゲートウェイとしての役割を活用してグローバル人材の育成も推進していく。
取り組みの様子
2020年に開所した一般社団法人中城村養殖技術研究センター(NAICe)を実証の場とし、「陸上養殖」「再生可能エネルギー」「廃棄食料の資源化」等をデジタル技術で連携させた農水一体型の新産業(沖縄モデル)をパッケージ化し、東南アジア等への展開を進めていく。
期待できる成果・評価 など
沖縄モデルをカスタマイズすることで国内外に展開し、若者にとって魅力のある一次産業の構築ができると期待している。
NAICeで生産した魚は「琉大ミーバイ(りゅうだいみーばい)」の商標(登録第6502402号)で、琉大ブランド商品として県内外に販売している。一連の取り組みは沖縄モデルの出口戦略(高付加価値化)にとって重要である。
同大学HP記事 : https://www.u-ryukyu.ac.jp/news/31837/