67号 Challenge!国立大学 特集【大学と新しい学び】

北海道国立大学機構 山形大学 東京大学 東京医科歯科大学 滋賀大学 九州工業大学

北海道国立大学機構

商・農・工の分野融合によるリベラルアーツ教育を展開する
教育イノベーションセンター

商学、農学、工学を専門とする小樽商科大学、帯広畜産大学、北見工業大学の運営法人として、三法人の経営統合により令和4年4月に設立された北海道国立大学機構は、機構設立と同時に、北海道における商農工連携・融合によるイノベーション型の人材育成拠点「教育イノベーションセンター」(ICE/Innovation Center for Education )を設置した。

同センターは、北海道産業・経済の課題を解決する高度人材の育成をミッションに掲げ、「社会・企業において経営・会計を理解し、専門分野の知識・技術の社会的影響力・有用性が判断できる人材」(農学系・工学系学生)及び「ビジネス・企業において技術的優位性を把握・評価し、適切な投資・融資、マーケティングができる人材」(商学系学生)を育成人材像として、様々な教育プログラムを開発・実践している。

三大学は、経営統合準備期間中から各種連携教育プログラムの開発・試行を進め、令和4年度は学部教育における分野融合教育が本格スタートした。計31の教養教育・リベラルアーツ科目を相互提供・共同運用し、履修者は延べ6,871名(提供大学を除くと1,140名)に及ぶ。各科目は、数理的思考、データ分析・活用能力を習得するための導入教育「数理・データサイエンス科目」、分野を越えた専門知を育成するための導入教育「文理融合導入科目」、地域の課題解決に向けた意識を涵養する基盤教育「地域理解・課題解決科目」、ビジネスプランを立案・実施できる能力を育成する「ベンチャーマインド醸成科目」の位置付けで展開し、学生の多様なニーズに応えている。

令和5年度は、相互提供・共同運用科目を拡大するとともに、三大学の専門科目を複合的に組み合わせた科目群で構成する3つの「副専攻型プログラム」(アントレプレナーシッププログラム、スマート農畜産業プログラム、スポーツ・健康プログラム)の運用を開始する。

 

北海道国立大学機構の経営ビジョン
https://www.nuc-hokkaido.ac.jp/document/about/vision/vision.pdf

北海道国立大学機構の経営ビジョン


山形大学

山形県内における小中高校生向け STEAM教育推進活動の取組

山形大学は、「地域の子どもたちに多様な知(STEAM教育)を直に届ける開かれた大学へ」をミッションとし、令和4年度に地域共創STEAM 教育推進センター(YU★STEAM)を設立した。地域的ハンディキャップなく誰もが豊かな学びへアクセスでき、拡散的思考力と課題解決力を高めることで未来を生き抜く力を育成することを目標に、同大学の知や設備をコモンズ化し、小中高校生を対象とした様々なイベントを開催している。

今年度の主たるイベントである「やまだいキッズラボ2022」では、本学教員が講師となり、「ドローン謎解きレースで3 次元の視点を養おう!」やNPO法人と共同で開催した「ブラックホールってなんだ!?作って学んでみよう!」などを行った。幼少期から地域の大学をより身近に感じてもらうため、専門的な講義のみならず、大学の知や設備を活かした体験型プログラムなどの教育コンテンツを開発し、地域へと提供している。2023年度は地元企業との連携事業も検討しており、子どもたちが自発的に考え、新たな価値を創造する場を産学協働で提供する。キッズラボ以外にも、探究学習のサポートや出前授業・講演会、教員研修等も行っている。

当センターが提供する興味の開拓から深化へとつながるプログラムが、子どもたちの能力を引き出し、山形県全体の活力に繋がることが期待される。
 
HP:https://yu-steam.com/

キッズラボ2022の「ドローン謎解きレースで3次元の視点を養おう!」の様子

キッズラボ2022の「ブラックホールってなんだ⁉作って学んでみよう!」の様子

地域共創STEAM教育推進センター(YU★STEAM)の組織図


東京大学

未来社会をデザインできる次世代の育成を目指した
新しいSTEAM 教育の開発と実践

予測困難な時代において、未来社会をデザインでき、かつ、Society 5.0の実現のため、研究やその成果を教育に展開することを目的として、東京大学生産技術研究所には「次世代育成オフィス:Office for the Next Generation(ONG)」が設置されている。

ONGではさまざまな機関・企業と連携し、「新しい知の創造」と「社会的価値の創造」を通して、グローバルな視点に立ち、インクルーシブな未来社会をデザインできる創造性を持った次世代のイノベーション人材育成に向け、データ分析に基づいた新しいSTEAM教育※を開発・実践している。

産業界(東京メトロ、JAL等)と連携したワークショップや東京大学グローバルサイエンスキャンパス(UTokyoGSC)といった教育プログラムを実施するほか、貸出教材やWeb・映像教材などの開発も行っている。オンラインや対面などそれぞれの環境に対応した個別最適な教育システム・手法を開発している。また、教育データ分析結果を研究者にフィードバックすることで、新たな社会的課題やニーズを明らかにし、教育データ活用の新たな展開を推進している。

こういった研究を基盤としたSTEAM 教育プログラムの研究・実践を通して、創造性を育む教育の実現を目指している。
 

※ STEAM教育:Science, Technology, Engineering, [Liberal-]Art[s],and Mathematics の略。
各教科での学習を実社会での問題発見・解決に活かしていくための教科等横断的な教育。

 
次世代育成オフィスHP:https://ong.iis.u-tokyo.ac.jp
生産技術研究所HP:https://www.iis.u-tokyo.ac.jp/ja/
UTokyoGSC HP:https://gsc.iis.u-tokyo.ac.jp

UTokyoGSC の様子。高校生自らが研究計画を練り、本学の研究室で研究活動を行う。半数以上が女性なのが特徴。

産学連携ワークショップの様子。科学技術が社会に結実する現場に触れ、科学技術と社会とのつながりを知る機会としている。


東京医科歯科大学

三位一体型総合学習による学びのモード転換:
グローバル教養総合講座

東京医科歯科大学は「知と癒しの匠を創造し、人々の幸福に貢献する」をミッションに掲げ、(1)幅広い教養と豊かな感性を備えた人間性の涵養、(2)自己問題提起、自己問題解決型の創造力豊かな人間の養成、(3)国際感覚と国際競争力に優れる人材の養成、を教育理念としている。

これらの理念実現のための第一歩として、入学直後の1年生全員(約280名)に、グローバル教養総合講座と呼ばれる三位一体型総合学習(基礎ゼミ・文章表現リテラシー・情報活用リテラシー)を実践してきた。学科を横断した7~8人の小グループを編成し、「生と死と現代社会」「科学技術がもたらす光と影」等のグローバルな大テーマに沿って各グループが独自の課題を設定し、グループ内外での議論を通した頭脳循環により問題解決を目指す。

そして最終発表会にて、成果をスライドにまとめ発表する。本授業により、教えられたことを暗記するだけの学びからモード転換を図り、自ら主体的に学びつつ幅広い視野を獲得し、「答えのない難問」に対応するための総合知を養う。

期待できる成果・評価、今後の展開 
①幅広い視点、②自発的な学びの態度、③学科を超えた相互理解、を本授業から得られたかという問いに、80%以上の学生が「はい」、と回答している。本授業が学生の主体的・協働的・探究的な学びの涵養にポジティブな効果を与えていることがわかる。本学は第4期中期計画にてクリニシャン・サイエンティスト並びにサイエンティフィック・クリニシャン(CS/SC)育成を掲げ、2023年度より学部教育カリキュラムを大幅に変革する。 教養教育においては、本授業を引き続き教育の中核として位置付け、2科目(グローバル教養総合講座、アカデミック・リテラシー)に分けて実施することで、さらに内容の拡充を図る。

東京医科歯科大学 新教養教育の流れ(2023年度〜)


滋賀大学

「データサイエンス」×「リベラルアーツ」による
未来創生教育の推進

滋賀大学では、2022年度から全学共通教養教育を再編し「リベラルアーツ教育」に改革した。複雑化した現代社会では、専門領域に関する知見のみならず、幅広い知識と柔軟な創造力が必須になるという認識のもと、リベラルアーツ・STEAM教育研究センターを新設するなど、文理融合型教育を全学的に展開している。

改革の目玉として、従来の全学共通教養科目を「ヒューマニティーズ」、「サイエンス」、「クリエーティブ・スタディーズ」の3分野に再編し、Society5.0時代に必要とされる新たな領域・科目を設定した。特に「クリエーティブ・スタディーズ」分野においては、「アート思考」、「デザイン思考」、「アントレプレナーシップ」などの科目を開講し、分野横断・課題解決型のSTEAM教育を目指している。この分野では、「ヒューマニティーズ」「サイエンス」両分野で学んだ成果を統合し、課題発見能力・価値創造力の育成を図る。

また、同大学では、データサイエンス学部・研究科の創設をはじめ、いち早く数理・データサイエンス・AI教育に取り組んできた。データサイエンス・AIに関する科目は全学必修化されており、文部科学省より特に先導的として「数理・データサイエンス・AI教育プログラム(リテラシーレベル)プラス」に選定されている。さらに、全学部において「応用基礎レベル」のプログラムを実施している。こうした時代の変化を見据えた実践的な取組は、企業等からも高く評価されているところである。

以上の取組を通じ、同大学を卒業する全ての学生に数理・データサイエンス・AIを活用する基礎的な能力を獲得させるとともに、「データサイエンス」×「リベラルアーツ」により、社会の発展と新たな価値創造にデータを活かすことができる人材を育成していく。

 
滋賀大学リベラルアーツ教育HP
https://www.shiga-u.ac.jp/program/curriculum/liberal_arts/

滋賀大学数理・データサイエンス・AI教育プログラムHP
https://www.shiga-u.ac.jp/program/curriculum/mdash/


九州工業大学

キャンパス内に多様性を
―共創空間をハブに産業界を巻き込んだデジタル人材育成―

産学官の“交わり” の形成拠点【GYMLABO( ジムラボ)】
休眠していた旧体育館をリノベーションしたコワーキングスペース「GYMLABO(ジムラボ)」を2022年5月にオープン。学生だけでなく産業界、地域社会の方々が日常的に訪れ、様々な交わりから新たなオープンイノベーションが生み出されることを目指す。施設内に設けられた民間企業向けシェアオフィスも全て埋まり、企業主催イベントも増加するなどますますの活性化が期待される。また、施設内には一見ミスマッチとも思えるベーゼンドルファーのグランドピアノが設置され、GYMLABO内における人と人とを繋ぐ重要な役割を果たしている(ピアノを中心としたイベントも多数実施)。

IT エンジニアリングスキルアップ講座 【KCL( Kyutech Code LAB)】
プログラミング学習をキーワードに「世の中の課題をITで解決できるエンジニア」の育成を目指す取組。一番の特徴は、企業で活躍するエンジニアの方々にも実際に参画いただく点にある。

企業の技術やデータを活用した実践的な大学院教育
大学院教育では、マテハン装置や先端計測機器など企業の持つAI技術を実際の教育に取り入れ、課題解決のみならず問題発見型演習を経験させることで、これからの産業界を牽引する高度専門人材を育成している。

KCLのピッチコンテストの様子
企業の方との活発な交流の機会に