69号 Challenge!国立大学 特集【国立大学のこれから】
北海道大学
計算・情報・実験の3つの科学を融合し、
新たな化学反応の開発に取り組む
ICReDD とは―北海道大学と化学
2018年10月、文部科学省「世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)」に採択され、「化学反応創成研究拠点(WPI-ICReDD /アイクレッド)」が設置された。鈴木章名誉教授の2010年ノーベル化学賞受賞に象徴される、化学に強みを持つ北海道大学のフラッグシップ研究拠点ICReDD。その理念に賛同し、当初から主任研究者(PI)を務めるベンジャミン・リスト特任教授(独、マックス・プランク石炭研究所)の2021年ノーベル化学賞受賞は、ICReDDの研究水準の高さと活動の重要性を示している。
3分野の融合:計算科学・情報科学・実験科学を融合。
化学反応経路ネットワークの計算、有効な反応経路の情報科学的絞り込みと実験的実証の研究サイクルにより、反応開発速度と精度向上に取り組む。
新学問領域の確立:計算科学やAI・機械学習が研究を主導する新融合学問領域「化学反応創成学」を体系化。
MANABIYA システム:国内外の大学院生・研究者が最長3か月間滞在し、ICReDD の最新の開発手法を習得する研究者育成システム。研究者間の交流を通じて、化学反応創成学を世界に広める。
大学院教育への展開:MANABIYA を発展させ、化学反応創成学を大学院教育へ還元。
研究力強化と国際化に貢献 反応経路予測技術の精度と新反応開発速度の向上、機械的刺激による反応開発、医療・農業分野へ応用される新素材の開発等の社会実装が始まっている。がん細胞をがん幹細胞へ逆戻りさせる抗がん剤開発の新技術や、植物成長を促進させる波長変換フィルムの農業への応用など、多方面で研究成果が挙がっている(Top10%論文比率16%(全学9%))。また、構成員の外国籍比率46%と、全学8%を大きく上回る国際性を有する。
ICReDD ウェブサイト
https://www.icredd.hokudai.ac.jp/ja
東京藝術大学
芸術未来研究場による、「人の心」への眼差しを根幹とした
価値の創造と社会課題の解決
東京藝術大学では、各芸術分野の深化・継承と新しい表現の創造を担う学部・研究科等に併存する全学横断的な組織体として「芸術未来研究場(げいじゅつみらいけんきゅう“じょう”)」を令和5年4月に創設した。
同研究場は「アートは人が生きる力である」という確信及び「人の心」への眼差しを根幹として、本学そして芸術の未来を考え続け、新たな価値の創造や社会的課題の解決に係る実験と実践を重ねることを通じて、人類と地球のあるべき姿/関係を探究することを目的としており、この達成に向け、以下の取組を推進している。
( 1 ) 多様なステークホルダーとの共創による未来社会のビジョンの形成
( 2 )分野横断的または異分野融合的な教育研究の推進
( 3 ) 学内外のコラボレーションを創出・促進するための仕組みや場の構築・運営
(4)アートの社会的・経済的価値(インパクト)に係る研究
また、研究場には探究・実践のアプローチかつ学内外を接続するキーワードとして「①クリエイティブ・アーカイブ」「②アートDX」「③ケア、コミュニケーション」「④キュレーション」「⑤芸術教育、リベラルアーツ」という5つの「横断領域」を置き、各領域において、全学的な研究・事業及び教育プログラム(社会人等向けを含む)の企画立案・運営を行う体制を築いている。
研究開発・社会実装・教育展開を一貫して推し進め、芸術の力・アーティストの可能性を証明・拡大しつつ、その価値を国内外の多様な領域/産業/地域と接続することにより、社会変革や課題解決を先導していく。
横浜国立大学
産官学・異分野の研究者で様々なテーマに取り組む、
日本初の台風専門研究センター
横浜国立大学台風科学技術研究センターは、台風の脅威に立ち向かい、その自然の力の活用を追求する、日本で初めて台風に特化した革命的な研究センターである。
多くの研究機関や自治体が台風からの防災・減災に取り組んでいる中、台風はまだ大きな脅威として存在している。しかし、人為的に台風を減勢し、さらにこの脅威的な自然現象を巧みに利用することで、持続可能なエネルギー源として社会の発展に寄与する可能性がある。
「What’s Typhoonshot?」
近年の台風による被害は増大している。地球温暖化など気候変動とともに、台風の破壊力も増しているとの予測もある。我々の目標は、2050年までにその破壊的な力を現在のインフラで守れるレベルまで減勢し、さらにそのエネルギーを活用することだ。この「タイフーンショット構想」を通じて、台風の「脅威」を「恵み」に変え、社会の安全と持続可能性を追求する。
本研究センターには、台風や気象研究の専門家だけでなく、電気工学、海洋学、経営、船舶工学、法学など様々な専門分野のトップ研究者と実務家が集結している。独自性の高いビジョンと世界水準の研究を協働推進することで台風研究を牽引し、研究成果を確実に社会へ展開してゆく。
台風科学技術研究センター
https://trc.ynu.ac.jp/
信州大学
信州発世界、水問題解決の総合アクア・イノベーション
サウジアラビア海水淡水化公社(SWCC)と覚書締結
信州大学は、岸田総理の中東3か国歴訪に同行し、令和5年7月16日に覚書を締結した。覚書は、本学が開発したナノカーボンRO(逆浸透)膜の研究開発のネットワーク強化等、海水淡水化研究の更なる発展と未来人材教育プログラム推進を目的としている。当日は、ムハンマド皇太子殿下に拝謁して岸田総理から直々に本学の紹介があり、今後の発展が大いに期待される。
本学の遠藤守信特別栄誉教授は、サウジ投資省大臣、駐サウジ特命全権大使、SWCC2030担当・海水淡水化技術研究所長とともに覚書締結披露会に出席した。
信大クリスタル®が提案するSDGs への貢献
信大クリスタル®とは「フラックス法」で育成した高機能な無機結晶材料の総称。手嶋勝弥卓越教授を中心に、信大クリスタル®による世界の水課題へのソリューション提案や人々の行動変容を促す活動を進めている。
タンザニアで飲用水に含まれるフッ化物イオンを取り除く吸着材の実証試験を行い、多くの人々への安心・安全な水の提供を目指している。国内では、プラごみ・CO2排出量の削減を目指して、マイボトル専用浄水器を多数展開し、これらの取り組みが2022年度、科学技術振興機構の「STI for SDGs」アワードで優秀賞を受賞した。
「水」問題の「一歩先のソリューション」を創る
「水」に関する取り組みを加速・拡大するため、「アクア・リジェネレーション機構」とその拠点となるセンターの設置を予定している。
研究・教育・社会貢献での特色や強みを伸ばし、信州や周辺地域においても広域かつ深淵な連携を拡げ、社会を豊かにし、より良い未来を創ることを目指す。
サウジアラビア投資省、大使館との「INVESTMENTAGREEMENT」の撮影会
(提供:経済産業省)
タンザニアに設置した浄水装置。移管式の後、現地での給水実証試験を開始した。
京都教育大学
「学びサポート室」を中核とした
縦断的・横断的・持続的な発達障害等の支援体制の構築
発達障害等の幼児児童生徒(以下「児童等」)が増加していると言われている。学校園では、特に通常学級や通級指導教室で、特別な配慮を要する児童等に対する理解や指導が喫緊の課題になっている。
京都教育大学は、令和4年度、特別な配慮を要する児童等と、その児童等を担当する教員への支援を目的に、「学びサポート室」を開設した。従来の教員養成に収まらない、教育現場に直接インパクトを与える大学を志向する。
「幼児児童生徒育成担当部門」「他機関及び地域連携支援」「キャリア発達支援」「知的ギフテッド部門」の4部門に、専任・兼任計14名の教員と附属学校共同実践者6名を配し、さらに今後教員2名を新規採用のうえ、①発達障害のある児童等に対する「チーム支援」(発達相談等を電子カルテシステム利用により行う)、②児童等の抱える困難の早期把握とそれへの対応、③校内体制の充実、④教員研修、⑤関係機関との連携促進、⑥ギフテッド教育等の支援に取り組む。
また、附属学校園等で幼・小・中・高と進学していく児童等のデータを〈縦断的〉に蓄積してデータベースを構築し、経年的な分析で効果的な指導法等を明らかにする。その成果を教育委員会等の他機関と〈横断的〉に共有し、学生教育にも採り入れて教員を養成し、〈持続的〉な支援体制を確立する。
今後、学びサポート室の支援のもと、特別な配慮を要する児童等への支援及び指導を充実させ、一人ひとりの可能性に応じた多様な学びを実現することで、発達障害等が要因と考えられる不登校、引きこもり等の軽減を目指す。
反響は大きく、キックオフシンポジウムには教員、教育委員会担当者など、約200名が詰めかけた。
大阪教育大学
教育の高度化をけん引する地域連携プラットフォーム
―「みらい教育共創館」来春オープン―
令和6 年春にみらい教育共創館をオープン
大阪教育大学は、令和4年3月、文部科学大臣から教員養成フラッグシップ大学の指定を受け、「令和の日本型学校教育」を担う教員の育成・養成のけん引役としての取組を進めている。
来年春、産官学の交流拠点として、天王寺キャンパスに「みらい教育共創館」をオープンする予定。みらい教育共創館(10階建)は、大阪市との合築施設で、1 ~ 5階は大学施設、6 ~10階には大阪市総合教育センターが入居する。
5階には企業やNPO法人が入居するオープンラボが設けられ、教育課題の解決や教員養成の高度化等に向け、協働して取り組んでいく。3階・4階には大型プロジェクターや電子黒板などの先端機器を備えた未来型教室を整備する。教育委員会や企業との連携のもと、未来型授業の実践的情報発信を行っていく。
期待できる成果
・ 個別最適な学びや教科横断的な学習に指導力を発揮できる教師の育成
・ 実践的シンクタンク機能の強化による教員研修の高度化への貢献
・ 最先端の実証研究の授業実践への反映 等
大阪教育大学の教員養成フラッグシップ大学構想
https://osaka-kyoiku.ac.jp/university/operation/flagship.html
みらい教育共創館
未来型教室イメージ
香川大学
DX からその先を見据えた
「データ駆動による大学運営・経営」を目指して
香川大学は、令和5 年4 月に「情報化推進統合拠点」を設置し、システム内製開発に代表されるDX 推進の実績をベースに、「データ駆動による大学運営・経営」を目指した取組を開始させた。
これまで、学生中心のDX 推進チーム「DXラボ」、DX推進に取り組む非情報系職員を任命した「デジタルONEアンバサダー」など、組織的にDX を推進するための仕組みを構築してきた。令和4 年度は「DX ラボ」と「デジタルONE アンバサダー」合わせて200 を超えるシステムが内製開発された。「デジタルONE アンバサダー」のメンバーが開発した「医学部附属病院経営分析システム」は、バラバラに管理されていた附属病院に関する各種データをリアルタイムに分析・可視化するシステムである。これまで人手で行われてきた分析作業の工数を大幅に削減するだけでなく、分析・可視化されたデータを具体的な経営改善につなげ、年間数千万円の増収を実現させた。また、「教員業績分析・可視化システム」、「就職活動状況分析・可視化システム」なども内製開発された。
システム開発やデータ分析などDX 推進に必要な情報技術者確保が喫緊の課題とされている今の時代、香川大学は教職員や学生にそれらのスキルを身に付けてもらい、教職学協働で「データ駆動による大学運営・経営」を目指している。
鹿児島大学
産学官連携による畜産獣医学教育研究拠点を
基軸とした地域産業創生事業
鹿児島大学では、我が国の畜産基地である南九州の中心にある鹿児島県曽於市と連携し、鹿児島県立財部高校跡地の活用による、動物福祉(アニマルウェルフェア)に配慮した牛・馬・鶏の最新のモデル農場の新設と教育研究施設への改修を行い、「南九州畜産獣医学拠点」を整備、令和6年4月に運用を開始する。
令和5年9月には、当該拠点における教育研究組織である「共同獣医学部附属南九州畜産獣医学教育研究センター」を設置し、動物の福祉と健康のための適正な飼育管理、農場衛生と経営に関するコンサルテーション等の産業動物獣医師の業務を通じた獣医学教育を行うとともに、地域の基幹産業である畜産を支える技術者の学び直しや、産学官連携による動物疾病検査体制の構築、動物用医薬品等の開発、JGAP(畜産)の認証拡大、地域獣医療(産業動物)の高度化、ホースセラピー等にも取り組み、市域の交流人口増を促して活性化に貢献する。
鹿児島県は、畜産物の中でも、肉用牛、豚、ブロイラーの産出額が全国1位(令和3年)と、全国屈指の畜産基地である。地元畜産企業によって運営される当該拠点のモデル農場では、飼養管理される動物の健康と衛生管理を附属センター教員(獣医師)が担当し、その業務を通じた実践的な学生実習を行う。当該拠点施設を全国の学生に広く開放し、また畜産技術者や産業動物獣医師の研修の場としても活用することで、我が国全体の畜産獣医学の技術向上につなげる。南九州の地の利を活かした日本初となる産学官連携による産業動物の実践的教育研修の施設として、未来を担う畜産獣医学技術者の輩出と人材交流の拡大に貢献する。