70号 Challenge!国立大学 特集【社会で輝く博士人材を育てる!】
お茶の水女子大学
分野融合的にイノベーションを創出できる「女性博士人材」を育成する
「次世代博士力」を涵養する授業科目
未踏の知を拓くことを期待される博士学生に、専門性にプラスして身につけて欲しいイノベーション創出のための視点・方法論を協働的に学べる授業科目を多数設置している。例えば「グローバル女性リーダー特論」ではアート思考やテクノロジーの融合によるSDGsへの具体行動を学修、「先端表現情報学特別講義」ではコンテンツ関連学術分野等を学んだ上でメディアコンテンツの将来像探究により次世代博士力を涵養する。
女性博士ロールモデルとの交流機会を重視
学生参加者を女性博士人材に限定した企業との交流会をはじめ、各種支援行事と個別相談を組み合わせた総合的なキャリア支援を行っている。特に、ロールモデルとの交流・懇談会に力を入れている。女性博士人材に立ちはだかる問題の1つに、ロールモデルや一緒に歩める心強い仲間が少ないことがある。そのため女性博士OGを招いた講演・交流会を定期的に開催し、ライフイベントと研究のバランスのとり方を含む、人生の岐路での選択の軌跡と今について語っていただいた後、自由に悩みを相談したり、参加者同士でつながれる場を設けている。本学はロールモデルたりうる女性教員も多く、日常的にロールモデルに触れ、助言を受けられることも大きな力となっている。
お茶の水女子大学では、「学ぶ意欲のあるすべての女性にとって、真摯な夢の実現の場として存在する」というミッションを実行すべく、イベント等を他学の女子学生にも広く公開し、すべての女性博士人材のキャリア形成の支援に取り組む。
お茶の水女子大学 博士向けキャリア支援:
https://www.cf.ocha.ac.jp/career/support/session.html
長岡技術科学大学
反復実習による成功体験に基づく博士人材の飛躍的な成長
特色ある取組
長岡技術科学大学においては開学以来、学部4年生に約半年の「実務訓練」を課しており、本学卒業生の企業における極めて高い評価に結び付いています。
この成功を踏まえ、本学の卓越大学院プログラムにおいては、博士課程の学生に対して、国内外の企業と大学の双方に2度ずつ派遣する「反復実習」を課しています。1度目の派遣で得られた気づきを活かして大学で力を養い、2度目の派遣で確かな自己表現に結び付けさせています。
この高度な教育プログラムを実施するにあたっては、本学が構築してきた13拠点におよぶGIGAKUテクノパークの駐在員による安全面でのサポート、実務訓練シンポジウムを通じた企業での実習のベストプラクティスの共有など、本学のこれまでの教育手法をフル活用しています。また、この先駆的な教育システムで得られた知見は学部生への「技術革新フロンティアコース」の新設など、全学に展開されています。
期待できる成果・評価
知のプロフェッショナルとして社会の様々な場面で活躍できる人材になるためには、多様で柔軟な「ものの見方・考え方」とその「体現」が必要です。本学の反復実習はこれを身につけることに成功しています。修了生は、大学などのアカデミアだけでなく、起業家など社会の幅広い分野で活躍しています。
東海国立大学機構名古屋大学
分野を超えて世界を牽引するプロフェッショナルリーダーを育成
名古屋大学では、文部科学省の大学院教育に関するプロジェクトとして、6つのリーディング大学院プログラム、4つの卓越大学院プログラムが採択され、大学院教育の改革に大学全体で取り組んできた。それらの成果を結集し、名古屋大学全体の博士課程教育に広げる役割として、博士課程教育推進機構(以下、「博士機構」と表記)が設置されている。博士機構を中心とした各研究科および組織との協力体制により、学内のリソースを効果的に活用するとともに、学際的・革新的な取り組みを促進している。
PhDスキル習得のための多彩な教育プログラム
自身の専門性をアカデミア、産業界等の様々なフィールドで活かして活躍するために必須となる汎用的なスキルを、「PhDスキル」として定義している。これらのスキルに関わる学内外の様々な授業、研修、ワークショップ、イベント等の情報を集約し、LINE等を通じて随時学生に情報発信している。また、自分が伸ばしたいスキルや都合に合わせて研修機会を選択し、自律的に学習計画を立てられるよう、多岐にわたる内容や実施形態のプログラムが用意されている。学内外のリソースを有効に活用することで、大学院生は幅広い教育プログラムにアクセスすることが可能である。
博士人材のニーズに沿ったキャリアサポート
博士人材のキャリアに精通した専任教員が、個別のキャリア相談、情報提供を行うセミナー、ロールモデルとなる博士人材との交流イベント、インターンシップ支援などを実施している。専門性に加え、多様な能力を培ってきた博士人材が、アカデミックポジション以外にも、多様なキャリアを構築し活躍できるよう支援している。
博士課程教育推進機構:https://dec.nagoya-u.ac.jp/
豊橋技術科学大学
博士人材育成に関する産学共創の取り組み
我が国の科学技術イノベーションを促進するためには、高度な研究開発力を有する博士人材を社会全体として有効活用することが鍵となる。その一方、「大学は産業界が必要とする人材を必ずしも育成できていない」「産業界は博士人材を必ずしも有効活用できていない」などの批判がある。
これらの問題を解決するためには、産業界と大学が協働(産学共創)して人材を育成していくという視点が必要になる。本学ではこの理念に基づき、TUT-DCフェローシップ、リーディングプログラム、技術科学教員プログラムにおいて博士人材育成のために次の取り組みを行っている。
■ 研究・課題解決力(トランスファラブルスキル)の向上
博士課程学生の主体性を強化するために学生ゼミを開催し、自らが設定した課題に対してグループワーク等を行っている。この一環で、産業界で活躍する講師を招いて講演会を企画するとともに対話会(スーパーリーダー塾)を開催し、産業界の視点を養っている。また産業界と連携して起業マインドを育成するためのセミナーも開催している。
■教育力の向上
高専教員または大学教員を目指す学生に対して、教授方法や学生指導方法を指導するとともに教育現場での教育・研究指導実習を課す技術科学教員プログラムを実施している。
■実務訓練を通したキャリア支援
産業界における実践的な技術感覚を体得し、課題解決能力を養うために博士後期課程学生に実務訓練を課している。実務訓練先は学生のキャリアパスを考慮して選定しており、キャリア支援の一翼も担っている。
これらの取り組みにより、博士後期課程への進学率向上、博士人材の産業界への就職率向上、博士人材の離職率低下などが期待できる。
TUT-DC フェローシップ :https://brain.tut.ac.jp/tut-dc-fellowship/
リーディングプログラム :https://brain.tut.ac.jp/
技術科学教員プログラム :https://www.tut.ac.jp/develop/kosen/gkkp.html
IBM 東京基礎研究所 中野大樹氏らによるスーパーリーダー塾
大阪大学
産学共創による充実した支援で博士課程進学を後押し―REACH プロジェクト―
2023年度から産学共創と高度人材育成を目指す「REACHプロジェクト」※をスタートさせました。このプロジェクトは、島津製作所社員が派遣されている研究室に在籍する本学の修士課程の学生が、修士課程修了後に同社に入社し、引き続き博士課程の学生として共同研究に従事しながら博士号取得を目指す取り組みです。
学生は同社に籍を置きながら本学の博士課程に進学します。就職後は「社員」「学生」二足の草鞋で、学内に設置されている協働研究所で研究活動に従事することとなり、優秀な学生の博士課程進学の後押しにつながります。社員として研究費だけでなく給与や充実した福利厚生を享受することができ、安定した修学環境で研究に取り組むことが可能となります。さらに、様々なバックグラウンドを持つ学生が同じ研究室で共に学ぶことで、企業の課題を大学研究室で共有することができ、共同研究や研究成果の社会実装の促進が期待されます。
この新たな取り組みに加えて、現役の同社社員が本学の博士課程に入学し、博士号取得を目指す「REACHラボプロジェクト」も継続中です。
大阪大学は、今後も社会との共創を通じて、博士人材の活躍促進を推進してまいります。
REACHラボプロジェクト経験者の声
● 専門性やデータの解析手法の獲得に加え、課題発見・解決能力の向上につながっている。
● プロフェッショナルなネットワークが特に魅力。研究を進めるという共通の目的意識を持つ同士として立場にかかわらず腹を割った深い議論ができ、ものごとの本質理解につながる。
● 研究者として成長し、社会に貢献する専門技術を培うことで、復社後は細胞解析のイノベーティブリーダーとして活躍したい。
※ REACH = Recurrent & Re-skilling Academia and Industry Collaboration forHigher Education
熊本大学
Well-Being 社会を先導する異分野横断型博士人材育成プログラム
本プログラムは、2021年度にJSTの「次世代研究者挑戦的研究プログラム」に採択された。現代社会は、激甚自然災害や新型ウイルスの感染拡大など、将来の予測が困難な時代にあり、一人一人が安全安心で健康に過ごせるWell-Being社会の構築が求められている。熊本大学では、博士課程を有する5つの大学院が独自に展開してきた教育プログラムを統合し、新たな「異分野横断型の挑戦的研究力養成」と「キャリア開発・コンピテンシー養成」を行う教育プログラムを設けるとともに、国内外の産官学等が連携してWell-Being社会を先導し、現代社会が直面する多様な課題をグローバルな視点から解決できる「異分野横断型博士人材の育成」を目指している。
また、合宿研修、研究・学修成果発表会を開催し、異分野・多国籍の学生が互いに切磋琢磨する機会を提供している。これにより、異分野間での科学コミュニケーション力の向上や、新たな発想を生み出す融合研究の創出につなげている。
本プログラムでは、これまでに96名の学生(うち留学生42名)が、研究専念のための経済支援、研究費や海外渡航支援、メンター・卓越アドバイザーによる指導を受けており、投稿論文の執筆、学会での発表、受賞などで多くの成果を上げ、広く社会に発信している。また、修了生は自身の専門領域にとどまらず、幅広い分野で活躍している。
熊本大学大学院次世代研究者挑戦的研究プログラム
「Well-Being 社会を先導する異分野横断型博士人材育成プログラム」
https://higoprogram.jp/well-being/