73号 LEADER’S MESSAGE 特集【URAの活躍】
優れた研究は、URAが輝く環境から生まれる
金沢大学学長
和田 隆志
近年、大学の研究力向上のために、URA( University Research Administrator)への注目が高まっています。
日本では2000年代からURAの導入が始まりました。
国立大学の中でもURAの重要性にいち早く着目し、その普及に主導的な役割を果たした大学の一つである金沢大学の和田隆志学長に、URAの役割や可能性についてお話を伺いました。
「人間力」でつなぐURA
― 和田学長は、URA(University Research Administrator)をどのように捉えているのか、教えてください。
URAは研究マネジメントのプロフェッショナルであり、かつ、研究の総合的なプロデューサーの役割を併せ持つ人材です。大学におけるURAの活動は多岐にわたっています。金沢大学では、研究戦略の立案から、外部予算などの申請支援、運営管理、社会実装に向けた取り組みまで、幅広い場面でURAが活躍しています。
― URAは、一般的に研究支援の担当者と理解されています。和田学長のお考えでは、それよりも多彩な役割を担うということですね。
確かに、研究支援はURAの重要な業務の一つです。しかし、我々はより多くの役割でURAが活躍できる可能性があると考えています。例えば、金沢大学には、さまざまな分野に精通したURAが多数在籍しており、学術研究から社会共創、地域連携分野に至るまでを幅広く担当します。URAは研究全体を運営・管理し、ときには研究者と対等な立場でプロジェクトをけん引する存在であってもよいと考えます。
― URAが総合的なプロデューサーとして研究を引っ張っていくうえで必要な資質は何だとお考えですか。
まず、「人間力」を重視しています。URAは、新しい価値を創るために、人と人、大学と企業、さらには地域と世界をつなぐ、重要な役割を担っています。研究の良し悪しを見極める目利きの力、そのための専門知識など、さまざまなリテラシーやスキルも確かに必要です。そのうえで、研究者と社会をつなぎ、新たな価値を創っていくために、一番大切なものは人間力です。金沢大学のURAは、人間味のあふれる人材が集まっており、その周りにはいつも笑顔があふれています。
― 金沢大学は2011年に文部科学省の「リサーチ・アドミニストレーター(URA)を育成・確保するシステムの整備」事業に採択された5機関に入っています。このように、早期から金沢大学がURAに着目してきた理由を教えてください。
本事業に採択された際の学長であった中村信一先生をはじめ当時の執行部の先生方が、早くからURAの意義に気づいておられたからだろうと思います。
金沢大学では、学術研究支援組織として2007年にフロンティアサイエンス機構を設立しました。当時のURAはわずか3名でした。2009年には、全国組織であるリサーチ・アドミニストレーター研究会が立ち上がりました。この組織は、URAの普及・知名度向上のために設立されたもので、金沢大学は初期メンバーとして、第1回から第3回の主催校を務め、主導的な役割を果たしてきました。
この頃は国立大学が法人化され、科学研究費助成事業(科研費)などの競争的資金が拡大し、さらに大型の助成金制度が導入されました。このため、社会的な課題に対して、戦略的・組織的に研究を推進する専門人材の必要性が高まったのだと推測します。また、金沢大学には伝統的に、技術職員などの研究支援スタッフを大事にする風土があります。このような土壌も、URAをいち早く取り入れた要因になっていると思います。
研究を飛躍させるURAの力
― 和田学長が、URAを重要だと考えるようになったきっかけを教えてください。
私は内科医です。実際に臨床の場で見た原因不明の現象を基礎研究に落とし込み、その成果を何とか臨床の場に戻したい、患者さんの治療に還元したいとの思いで研究を行ってきました。研究成果を企業や社会につないでいくためには、産学連携が重要です。当時、この役割を担ってくれたのがURAです。URAとの交流が進むにつれ、それまでの研究活動では得ることのできなかった、多くの有益な情報を持っていることに驚かされました。さまざまなネットワークから、たくさんの情報がURAのもとに集まっていたのです。URAとの協働により、研究に新しい視点が加わるとともに、自身の可能性も広がり、産学連携による社会実装の早期実現を身をもって実感したこと、これが、私がURAの重要性を意識するようになったきっかけです。
金沢大学では、学術研究支援、産学連携支援、地域連携推進のそれぞれの機能をアンダーワンルーフに統合する組織改革が長年、議論されてきました。その結果、2019年に生まれたのが、URAが主体的に活動する組織である、先端科学・社会共創推進機構(Frontier Science and Social Co-creation Initiative:FSSI)です。私が研究担当理事を拝命していた2020年には、FSSIに所属するURAは、組織的に研究者と協働するタフなパートナーとして成長していました。
URAは、研究力の向上のみならず、大学全体の発展に不可欠な存在です。そのため2022年に学長を拝命してからも、さらなる体制拡充に取り組みました。学長就任時、22名であったURAは、現在は39名にまで増加しています。
― 研究計画書や研究費申請書の作成支援を中心にURAを活用している大学も多いと思います。一歩踏み込んで、URAに対する意識を変えていくにはどうすればよいでしょうか。
繰り返しになりますが、URAは研究支援にとどまらない、さまざまな場面で活躍できるポテンシャルを秘めていると私は考えています。例えば、URAは研究者とチームを組んで活動を行うことも多くあります。特に、社会課題解決型の大型研究では、研究者が目指すゴールを達成するために、戦略的なチームづくりが不可欠です。そのチームづくりの一役を担うのがURAです。チームの編成も多種多様で、一人のURAが担当して研究者をつなぐこともあれば、複数の専門領域のURAが協力して対応することもあります。他の大学や研究機関との共同研究はもちろん、国際的な共同研究にもURAが積極的に関わっています。このような研究者とのチームづくりを通じても、URAに対する意識が変わっていくのではないかと思います。
金沢大学では、URAはいろいろな場面で活躍しています。2017年に世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)に採択された、ナノ生命科学研究所(WPI-NanoLSI)の設立では、拠点の構想、関連省庁との折衝、融合研究の推進など、さまざまな面でURAが活躍しました。特にそれまでの金沢大学の強みであった、ナノ材料科学や高速原子間力顕微鏡(高速AFM)の研究者をつなぎ、新たなナノバイオイメージングに関する融合研究の拠点形成に大きな役割を果たしました。また、研究所の設立後も、さらなる研究資金の申請支援、外国人研究者のサポート、他大学・研究機関との連携調整、サイエンスコミュニケーションなど、幅広く研究所の運営の一翼を担っています。URAの的確な研究マネジメントもあり、WPI-NanoLSIではナノ内視鏡AFM技術の開発が進展し、アルツハイマー病の新規治療薬レカネマブの作用機序の一端を解明するなど、いくつもの大きな成果につながっています。
また、産学連携では、二酸化炭素の回収に関する大型共同研究をURAがコーディネートしました。これは、新学術創成研究機構の児玉昭雄教授の基礎研究を、焼却炉を製造する民間企業にURAがつないだものです。排出ガスからの新たな二酸化炭素回収法として、世界的に注目され、総合科学誌『Nature』にも取り上げていただきました。また、内閣府の大型研究プロジェクトであるムーンショット型研究開発制度の研究開発プロジェクトの一つにも選ばれています。
このように、それぞれの大学においてURAの成功事例を積み上げていくことが、研究者の間にURAの重要性が浸透していくきっかけの一つになると考えます。
URAを魅力のあるキャリアへ
― URAに求められる能力も多岐にわたります。URAはどのように力をつけていけばいいのでしょうか。
現在金沢大学で活躍しているURAは、ほとんどが大学院博士課程を修めたり、産業界での貴重な研究経験を有したりしています。博士の学位は、必ずしもURAの必須条件ではありませんが、博士号を取得しているということは、それぞれの分野で新たな領域を切り開いた経験があるとも言えます。皆さん、それぞれのバックグラウンドで、分野全体を見渡す俯瞰力を身につけているはずですし、さまざまな分析力や論理的思考力、コミュニケーション能力も備わっているでしょう。このような経験で培った能力をさらに伸ばしていけば、URAとして求められる、異分野への理解や研究管理・運営能力も自然と身につけることができると言えます。
― 日本では、大学院は研究者養成機関という意味合いが強く、博士号取得者は通常は研究者の道に進むと思います。そのような人にURAの道を選んでもらうにはどうすればいいのでしょうか。
博士に対する社会的な考え方も少しずつ変わってきています。現在では、博士号取得後にはさまざまなキャリアの選択肢がありますし、以前よりその選択肢の数も増えています。おっしゃる通りアカデミアの道を進む方もいれば、民間企業や官公庁に進む方もいます。また、自身で起業する方もいます。このような多様な選択肢の一つが、URAであると言えます。実際に、博士課程の学生の中には、将来、URAを希望する学生もいます。学生たちに選ばれるには、多くの方々にURAが活躍する姿が伝わり、職業としての魅力を感じてもらうことが重要です。
私が学長になってから開始した取り組みの一つに「雑談のチカラ」というイベントがあります。これは、URAの持つ豊富な人脈や、人と人をつなぐ力を生かして、著名人、有識者、民間企業のトップなど、多方面で活躍している諸先輩を招き、学生と雑談をしてもらうというものです。
例えば、元金沢市長の山出保氏にお越しいただいたときには、街づくりがテーマとなりました。そういう話を理系の社会基盤や土木工学を専門とする学生が聞けば、建物の設計や都市計画のイメージが湧くでしょうし、文系の地域創造や観光デザインなどを専門とする学生が聞けば、より文化的、社会的なイメージが湧くことでしょう。このような異分野交流の場でURAが活躍することで、その姿を間近で見る学生や若手研究者にとって、URAは身近な存在になっているはずです。この「雑談のチカラ」の開催では、分野を超えたURAの連携が重要になりますが、本学にはすべての部局にそれぞれ担当するURAがいて、お互いに連携してコーディネートしています。
― URAをキャリアパスの一つとして博士課程の学生にも示していくということですか。
金沢大学では、博士課程の大学院生を対象として、URAの業務を経験できる「研究インターンシップ」を今年度から開始し、すでに受け入れを始めています。これは、学術研究支援を行う高度専門人材を、金沢大学の大学院博士課程からも見つけて、育てていこうという試みです。こうした業務に興味を持ってくれた学生に、キャリアパスの一つとしてURAがあることを示すことはとても重要だと思います。
さらに、多様なキャリアパスの中でURAを体験することの利点は、研究をマネジメントの視点から見ることができ、複眼的な視野が形成されることです。研究への接し方の角度を変えることによって、同じ研究でも見え方が変わり、新しい発想が生まれることも期待できます。若いうちに物事を多角的に捉える経験を積むことは、その後、どのようなキャリアを歩むことになっても、その人の大きな財産になるでしょう。さらに、研究インターンシップの副次的な狙いとして、学生が研究者の道に進んだ際に、URAの重要性を前もって知っておけば、将来的にお互いに協働しやすくなるといった効果も期待しています。
URAの待遇改善も重要です。金沢大学では、URAに教員としての職階を与え、研究者と同等の待遇となるよう努めています。現在、5人のURAが教授として活躍しています。これは、URAが金沢大学になくてはならない重要なメンバーであることの一つの現れです。
金沢大学では15年以上も前からURAが活躍しており、URAと研究者が協力して研究や産学連携などを進めていくのが当然というカルチャーができています。そうなるとキャリアパスがはっきりと見えるようになり、URAという職業がさらに魅力的なものに映るのではないでしょうか。URAには大きな可能性があり、何より私自身がURAの可能性を信じています。
分野、大学を超えたURAの連携も
―研究にはさまざまな分野があります。例えば、生命科学の博士号を持っているURAはその分野の研究についてはよくわかると思いますが、それ以外の分野に対してはどのように対処して活躍すればいいのでしょうか。
自身の専門性を生かしながら、苦手な部分を補うように、まずはURA同士、グループをつくりコミュニケーションを図ることが大切です。そして、グループの中でお互いを高め合いながら、別のグループとも横串を刺していく必要があります。このように、一人一人のURAが、全体像を俯瞰して把握できる仕組みを構築する必要があります。
現在、金沢大学には39名のURAがいますが、URA同士の連携がスムーズにできるように、ほぼ全員がFSSIに所属し、「アンダーワンルーフ」の組織づくりを進めています。URAは7つのユニットに分かれており、月に2回ほどミーティングを開催することで、URA同士が日常的に情報交換をしています。また、私自身もURAと定期的にミーティングをしています。このように、コミュニケーションを密に取り合うことで、普段なら思いつかないようなひらめきや、異分野同士の研究の結び付きが生まれ、研究に新たな広がりがもたらされることが期待されます。多様性を尊重し、お互いを補い合うことが、URAの活躍の鍵を握っていると考えています。
さらに大学間の連携も有効です。北陸地区の国立大学4大学は北陸経済連合会と共同で「北陸未来共創フォーラム」を運営しています。これは、北陸地域に拠点を置く民間企業、金融機関、公益団体、自治体、教育研究機関などが参加する産学官金プラットフォームです。ここではそれぞれの大学のURAが協力して産学連携を進めています。このプラットフォームを活用した企業と研究者との共同研究により、社会実装につながった成功例もすでに出ています。
社会に貢献するURAの「志」
― URAは、社会実装までを見据えて、研究をマネジメントする必要があるのですね。
金沢大学は、学内で取り組む基礎研究やコア技術を活用し、生み出された研究成果を社会実装につなげていく新たな拠点として「未来知実証センター」を2023年4月に設置しました。このセンターは、立ち上げからURAが中心的な役割を果たしています。その一例が、右上の写真で示す、2024年8月に開催された未来知実証センターTAKE OFF EVENTです。ここでは、未来知実証センターの紹介はもちろんのこと、金沢大学で推進する15個の研究開発内容を「ショーケース」と称して展示し、参加者と研究者が自由に意見交換を行いました。このイベントが大きな成功を収めたのは、150社以上の企業に自ら足を運び、未来の課題を徹底的に掘り起こしてくれたURAのひたむきな努力によるものだと感じています。
キャンパス内に建設中の5階建ての未来知実証センター棟が完成すれば、さらにURAの活躍の場が広がります。建物1・2階部分の基礎研究フロアや融合研究フロアに集める研究の選定も、すべてURAが担当しています。
また、産学連携の出会いを創出する場となる3階のオープンフロアには、北陸先端科学技術大学院大学のURAオフィスも設けられる予定です。オープンフロアは企業の方だけでなく、他大学・機関のURAも訪れることになるので、URAを起点とした広い範囲で産学連携が進むことになるでしょう。さらに、昨年度採択された、地域中核・特色ある研究大学強化促進事業(J-PEAKS)の推進においても、URAは重要な役割を果たしています。
― URAが活躍する土壌がある金沢大学では、URAの役割がどんどん大きくなっているように感じます。
URAは、さまざまな人や組織が連携するうえでなくてはならない存在です。URAがうまくつないでくれることで、大学におけるプロジェクトに大きな推進力を生み出します。金沢大学では、URAの自由度が非常に高く、業務の定義もほとんどしていません。このように一定の裁量を与えているので、URAの方から、新たなチャレンジをどんどん提案してくれます。
最近、学外からも特にご注目いただいているURAの活動として、シーズの目利きがあります。金沢大学は2023年8月に、自己財源100%出資により、ベンチャー企業のスタートアップ支援や、その成長を強固にサポートするベンチャーキャピタル「株式会社ビジョンインキュベイト」を設立しました。また、12月には北陸先端科学技術大学院大学とともにスタートアップ・エコシステム共創拠点プログラムにも採択され、Tech Startup HOKURIKU(TeSH)という北陸地域のスタートアップ創出プラットフォームを設置しています。アカデミアシーズの発掘から、スタートアップまでをシームレスに支援する仕組みが構築されたことにより、URAのシーズの目利きの重要性はますます高まってきています。URAが有望な基礎研究やシーズを発掘することで、スタートアップの創出が大きく推進され、イノベーションを起こす大きな原動力となります。支援の届きにくいシーズ段階から、スタートアップへと成長するまでサポートすることで、広く社会に貢献できると信じています。
― 今後、URAにはどのように活躍してもらいたいとお考えですか。
金沢大学では、「志」という未来ビジョンを掲げ、「オール金沢大学で『未来知』により社会に貢献」することを目指しています。もちろんURAも、「志」を実現するオール金沢大学の一員として、それぞれの個性を生かして活躍しています。中には自身がリーダーとして産学連携プロジェクトを推進しているURAもいます。10人のURAがいれば、10通りの活躍の仕方があります。個々のURAが自分の強みを生かし、発揮できる環境が整えば、URAは本当に大きな可能性を秘めた魅力的な職業になると思います。URAの活躍が、大学、さらには世界の発展に貢献し、輝く未来を拓いていくことを心から願っています。
和田 隆志(わだ たかし)
金沢大学医学部卒業、同大学大学院医学研究科博士課程修了/博士(医学)。金沢大学教授、金沢大学学長補佐(研究戦略担当)、金沢大学医薬保健学域医学類長、金沢大学副学長(研究力強化・国際連携担当)を歴任。2020年4月、国立大学法人金沢大学理事(研究・社会共創担当)/副学長を経て、2022年より現職。