第1部 調査結果の報告

1 国立教員養成系大学・学部の改組・改編について

 国立教員養成系大学・学部の改組・改編については、次の5項目にわたって意見の集約とその結果の特徴について報告することとしたい。
 国立教員養成系大学・学部は、行政改革の過中の教育改革の一環として、少子化とその影響による教員採用数の減少という状況を受けて、平成10年度ないし12年度の3年間に、さらに入学定員を5000名減らすという問題に直面し、学部の改組・改編等による、大きな転換を迫られてきたのである。
 このような、過去10年間の5000人に加えて、今回、さらに「5000名縮減」という状況の下で、各大学・学部がどのような問題状況に置かれているかを、これらの問題を通して検討するとともに、教員養成系大学・学部の今後の大学としてのあり方を考えていくこととしたい。


 1. いわゆる「5000名縮減」問題に関して
 2. いわゆる「統合型教員養成課程」問題について
 3. 教員養成系大学・学部の今後の役割に関して
 4. 「新課程」(非教員養成課程)及び「学科」に関して
 5. 教員養成系大学・学部と関係諸機関の連携について
 

1.

いわゆる「5000名縮減」問題に関して
 (1) 【問1】教育学部等の入学定員
「5000名縮減」の方針が出された段階(平成9年5月時点)での各大学・学部における改組・改編計画の取組状況は、『図1』のようにほぼ三分されていたということができる。

    

 

 

 すなわち、「具体案を持っていたところ」(「1. 具体案があり、文部省との交渉に入っていた」+「2. 具体案がまとまりつつあった」)が24.5%(12大学・学部)
「検討中ないしは必要との議論中」(「3. 具体案作成に向けて検討に入っていた」+「4. 改組・改編の検討に入るべきだという議論がされていた」)が34.7%(17大学・学部)、そして「何も動きはなかったところ」(「5. 何も議論されていなかった」+「6. すでに改組・改編は終了していた」)が36.7%であった。
 「すでに改組・改編は終了していた」と回答した大学・学部の多くは、上記方針が出される以前の段階で、大学設置基準大網化問題や教養部改組問題等と連動して教育学部においても学生定員や教官定員の異動が行われていたため、「すでに終了の認識」を持っていたためと思われる。

(2) 【問2】改組・改編計画の具体的内容は何だったのか、という点に関して、【問1】で具体案の検討について回答した(1,2,3)23大学・学部に複数回答可で尋ねた結果は、『図2』の通りである。

   「教員養成課程学生定員の純減(69.6%)」や「教員養成課程学生定員の新課程(非教員養成課程)への振替(65.2%)」、あるいは「新課程の設置(56.5%)」という方策が相対的に多く、教員採用者数の絶対的減少に、各大学・学部は教員養成課程学生定員を減らし、その削減分は新課程の設置・充実に充てる形で対応しようとしていたことがわかる。また、「学部名称変更を含む改組」を計画していたとする4つの学部は、「5000名削減」方針に連動して、いずれもその実現を果たしたが、「新学科の設置」を計画していた2つの学部は、いずれもこれを実現できなかった。

(3) 【問3】では各大学・学部で計画していた改組・改編の内容と「5000名削減」の方針の内容との関係はどのようであったのかを尋ねた。『図3』はその結果である。
 「一致していた」とするところは6.1%(3大学・学部)に過ぎず、『部分的修正が必要』で済んだところは26.5%(13大学・学部)であった。これに対して、全体の半数近くの23大学・学部では、「根本的修正」や「新たな計画の必要」を迫られ、7つの大学・学部では、「特に計画はなかったので、方針に基づいて改組・改編を具体化した」と回答しており殆どの大学・学部において何らかの練り直し等を迫られたことがわかる。

  
 

  (4) 【問4】は、今回の「5000名縮減」方針と実施方法についての意見を自由記述で求めたものである。文部省の施策に対する意見だけではなく、改組・改編についての自らの大学・学部の対応方針のみを述べたもの(4,対応方針のみ記述)もあった。
全体としての記述内容は、図示(『図4』)した5つの傾向にまとめられる

   2-イの「やむをえないと思うが、問題がある」の意見は、次のようなものがあった。
□必要以上に、縮減の標的にされた。□学級定数の見直しが必要。□早めに方針を出してほしかった。□検討時間が少ない。□数字的裏付けのある説明がほしかった。□算定に具体性が欠ける。□免許の開放性との関係から矛盾を感じる。□資質の高い教員養成のためには、マイナスではないか。□市場原理優先の危険性を感じる。□基本方針が不確定のため、対応に混乱が出た。□数だけの削減が優先された。□教官数を連動することは問題。□学部のあり方の議論がまず必要ではないか。
 3-ウの「大いに問題がある」の意見内容にも次のような指摘があった。□根拠不明。□本質的教育政策を欠いている。□学級定数をまず見直すべき。□教育学部だけの問題にしたことは問題。□あまりにも機械的な縮減。□安易な行財政改革である。□全く無責任。□全く唐突。□平成16年度の単年度需要を根拠にすることに矛盾。□新課程路線の評価をしないままの縮減。□文部省の新課程の位置づけの変化に問題。□各種審議会等での検討と縮減作業がちぐはぐ。□方針が不明確。□一方的導入。□計画養成の基盤を損なう。□短時間に過ぎる。□最初に人数ありきで大学の努力の評価は無い。

 全体としてみれば、「やむをえない」と考えている者と批判的見解を述べている者とが、拮抗しているが、「やむをえない」と感じながらも、問題点を指摘する者も相当数あった。指摘された問題点としては、「文部省方針の不明確さ」、「まず縮減ありきの姿勢」、「ゆっくり検討する時間の不足」、「まず学級定数の見直しが必要」などであった。
 「4-エ,対応方針のみ記述」した各大学・学部の改組・改編の方針は、「生涯教育など学校教育以外の諸領域に関する新課程を設置することなどによる教員数の最小限のくい止め」という点で、ほぼ共通した意見が見られた。

2. いわゆる「統合型教員養成課程」問題について
(1) 【問10】及び【問11】は、最近の教員養成課程の改革の主流となった、いわゆる「統合型教育養成課程」の長所と短所に関して尋ねた設問である。この場合の、「統合型教員養成課程」とは、従来の「小・中・高校及び養護学校に対応した教員養成課程」から、「初等教育・中等教育の教員養成課程」や「学校教育養成課程」に再編されたものをさすがが、このスタイルを採用しない方針を固めた1学部を除いてすべての大学・学部が採用し、かつその圧倒的多数は、後者の「学校教育教員養成課程」である。
 まず、『図5』と『図6』が、それぞれ「その他」を含む9つの選択肢を用意して長所と短所を3つ以内の複数選択可で尋ねた【問10】の結果を表したものである。

 


   全体的な傾向として、短所より長所の指摘率の方が高いといえる(「その他」を含む指摘実数の単純合計で長所が134,短所が106)。内容的にも長所が「小中学校の連続性の深い理解を図ることが出来る(77.6%)」「小学校教員志望の学生にも教科専門の力をつけることが出来る(46.9%)」「中学校教員志望の学生にも教職教養の力をつけることが出来る(44.9%)」「学生に中学校の複数教員免許状を取得させやすい(59.2%)」という4つの項目に比較的集中しているのに対して、短所は「複数免許状の取得を可能とするようなカリキュラム・時間割編成が困難となる(28.6%)」「各免許状取得者数の予測がつけにくくなり、授業クラス編成等の点で困難となる(49.8%)」「教育実習の学生配分等において複雑・困難となる(32.7%)」という3つの項目の指摘率が相対的に高い。すなわち、前者が「統合型課程」の理念的な事柄を意味する諸項目であるのに対して、後者は「統合型課程」を実務的に実施していく際の事柄を意味する諸項目であるといえよう。
 (2) このような全体傾向は、「統合型教員養成課程」のメリット・デメリットを自由記述で尋ねた【問11】の記述からも指摘することが出来る。46大学・学部の内、31大学・学部が次のような回答をしている。
 メリットとしては、次のような諸点があげられている。
□課程内のコース別カリキュラムを区別することによって教職重点コースと教科重点コースを設定でき、特徴ある教師養成が出来る。□個性の伸張と得意分野づくりに取り組みやすい。□個性ある教員の養成の可能性。□募集人員の枠が大きくなる。□教員の需要種別に対応できる。□従来から小・中・高校免許取得を指導してきたが、この方向性が明確となる。□校種を越えた教育的課題に対応しうる視野を獲得できる。□中学校教員に専門教科の教員である前に「人間の教師としての自覚と責任を喚起する意味で有効。□総合的な力を伸ばすという点。□初等教育教員養成課程は幼少の、中等教育教員養成課程は中等のそれぞれ一貫した教育に対応できる。□就職の際、複数免許取得は有利になる。□小中学校2免許取得は離島僻地の教育振興に有益である。□学生の自由選択の幅が大きくなった。□学生は入学後に、学校種を選択できる。 □教科専門の教員が小学校課程の教育に疎遠だった傾向を改善できる。
 次に、デメリットに関しても、次のような多様な指摘がなされている。
□小中学校の教育の連続性と境界性が何であるかが不明確な現状では一つの課題に異質な養成プログラムが同居し弊害が生まれる。□小中ともに「教員の専門」とは何かを説明しづらくなる。□入口は一つでも中で特化されるならば同じことになる。□履修指導が不徹底の場合中途半端になる。□小学校中心に純化するとしたらデメリットになる。□一貫した学習を系統的に行うという面で問題あり。□中学校等の教科別の専門性が薄れる。□教科専門に対するアイデンティティが薄くなった。□入学後に自分の素質に応じて選択できるメリットもあるが、意識形成に遅れを生じる可能性もある(指導の必要性)。□必要単位に拘束され、自由な学習研究の時間が少なくなる。□安易に多くの免許取得に流れ実質的な教育が身につかない恐れ。□履修カリキュラムが過密化し、学生の科目選択の幅が狭まった。□小学校1種、中学校1種取得のための教育実習にかかる負担が大きい。□2種類の免許取得で取得単位数が増えて、大学審答申が指摘する「履修単位数の上限設定」の考え方と矛盾が生ずる。□カリキュラム数が多くなり、実際に時間割がくめるかどうか危惧がある。□教科教育コースにおける小及び中免許取得希望者が年次ごとに流動的になる。□学生数が多い場合は分けないとやりにくい。□教育実習期間の確保と学部における履修の調整に困難を生じる。□一括して学生募集を行うことにしているが(音美体を除く)、教科専攻による極端なばらつきが生じることにどう対応するかが問題。

 全体として、教員需要に柔軟に対応できるという点と小・中を見通すことの出来る教員養成という理念としてはメリットもあるが、他方でその理念を具体化していく実施上指導上の問題は多いとも考えられているということができる。
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