第1部 調査結果の報告

3 教員養成と大学院の役割について

 教育職員養成審議会第2次答申も述べているように、教師の資質・力量の向上や能力開発にとって、大学院の役割は今後ますます大きくなることは確実である。大学・短大への進学率がすでに50%に迫り、さらに今後上昇していく大学大衆化社会では、大学院に重点が移行するであろうし、現に、国際的な教員養成の動向も、大学院段階に移行しつつある。今後トレンドになるであろう、教員養成における大学院の役割について、調査結果を紹介する。

1. 一般大学の大学院と教員養成
 学長調査に見る限り、一般大学の大学院でも「条件を整備」した上での推進も含め、62%が教員養成への寄与を支持しており、「教員養成系が本体」とする回答は26(33%)、「推進すべきでない」とする意見はゼロである(図34)。
 条件整備の内容としてあげられているものは、@地方教育行政側による各種の措置A教員養成側の努力・取り組みB文部省などによる行財政支援に大別でき、複数をあげる大学もあった。特に、大学教員の配置を求める意見が目立つ。また、一般大学の大学院でも、教員養成カリキュラムとしてふさわしい内容にするために、教職科目や教員養成のためのカリキュラムを条件とする意見もあり、一般大学における教員養成系大学院の役割を検討する必要があろう。
 他方、「教員養成系大学院が本体」とする回答も、3分の1ある。これらの大学は、工業・水産・商船などの単科大学をかなり含み、もともと教員養成になじみにくい学部・大学院の構造を持っているためであろう。また、複合大学も含まれており、大学内部での教員養成の在り方にもかかわっていると思われる。

@ 主に地方教育行政側による各種の措置
「大学院に入学しやすいような現場の配慮 大学院で勉強が続けられる時間と費用の保障 大学院を出たことが実利につながるような教師の処遇改善」
「在職中の教師が、1年間ないし休職派遣(もう1年の仕事軽減)によって、マスター論文を書ける体制を作るなど」

A 主に大学側の努力・取り組み
「大学院の教育・研究の目的や内容・環境等が教員としての専門的知識や能力の育成に十分適していること」
「教員養成のために構想されたカリキュラムが条件或いは少なくともそのようなカリキュラムと連携(他大学院等と)したカリキュラムが条件」
「経済的・時間的保証。受験者の適正な評価が必要」
「教職に関する科目の担当教員の増加」
「@それぞれの専門分野を深めることA生徒指導の専門を深めること」
「入学後の指導体制」
「照応する授業科目設定にかかわる予算措置の必要性」
「教科専門科目以外の教職専門科目についての充実を図るための指定科目等を整備する必要があろう」
「教員には、特定領域の専門家であると同時に全人的な人間教育をも担うことが必要である。そのためにも教員養成系大学院以外のコースも必要である」

B 主に文部省など行財政支援
「教官負担問題の解決」
「教育環境をととのえる。奨学金を増額し、研修を十分に行えるようにする」
「融通性のない制度の改善と、人的充実」

C いずれも含むもの
「資格のランクを上げるためではなく、研究現場に身を置いて学問の創造性を身をもって体験する必要があり、そのためには大学教員及び設備の充実が不可欠である。教員養成系でない学部の大学院でも、教職単位が容易に取れるようにすべきである。学部で課程認定を受けていれば、大学院でも教職の単位を自由に取れるようにすべきである」
「在学を容易にするための休業制度、授業負担の軽減や修了者に対する処遇改善を図ると同時に、大学で在学年限の弾力化などが必要。」
「教職科目など教員養成に深くかかわる教官の配置。現職教員の研修のためには、職場での教員補充をはじめとする就学環境を整えること」
「物的・人的条件の充実」
「教員養成・再教育に対応した適切なカリキュラムと教官・施設・設備の条件整備が必要」
「専任教員による教育体制の充実 カリキュラムの内容の検討」
「教員養成のためのカリキュラムの整備及び教員養成のための専任教官の増加が必要」

 



2. 大学院修士課程が教員養成に果たす役割について
 次に、大学院修士課程の役割として最も重要とされているのは、何であろうか。教育大学長および教育学部長を対象にした調査(以下学部長調査)では、養成機能よりは、「現職教員研修や研究の受け入れ機関」が最も支持が高く、ほとんどすべての学部で「重要」と回答し、「大体重要」を合計するとすべての学部で支持されている(図35)。これに次いで、「カウンセラー等の専門職養成の本体」と、「中学校教員の資格上進」、「障害児教育諸学校教員の資格上進」、「高等学校教員の資格上進」など専修免許取得の機関として重要度が認知されており、「指導的教育関係者の養成の本体」については、「重要でない」とする否定的意見も強い。
 その他としては、「重要である」ものとして、「能力の高い教員の養成」、「教育現場が求める資質を持った教員の養成のための研究」、「だいたい重要」なものとして、「生涯学習指導者、社会教育指導者等」という回答もあった。

注:各設問のウェイトを単純化するため、「重要」=3、「大体重要」=2、「重要でない」=1で点数を総計し、有効回答数によって除した。2.00が平均となり、高いほど重要。


3. 大学院修了者の比重と目標値
 また、大学院修了者と資格の関連について、学長、学部長に聞いた設問でも、同様な傾向が得られている。
 学長調査の場合、大学院修了者を基礎資格とすることについては、まだ強い支持がない。小学校教員の基礎資格としては、「重要でない」が、「重要」および「大体重要」の計よりも多数であり、中学校教員の基礎資格は、ほぼ同数(34大学対33大学)である。一番支持があるのは、指導的教育関係者の基礎資格で64%が重要と答え、重要でないとするのは17%である。義務教育学校教員の資格を大学院本体とすることには、まだ多数の支持がない(図36)。この傾向は、学部長調査もほぼ同様である(図37)。
 現行法制では、学校教育法施行規則第8条によって、高等学校校長が専修免許状を有することを定める以外は、教諭の有する免許状を有し、5年以上教育に関する職にあることが資格となっており、学校経営など教育指導に必要な教育訓練は資格化されていない。教育長、指導主事も同様であり、中教審答申(1998年9月)において地方教育行政の活性化、学校裁量の拡大などが提案されていることから見ても、それを担える人材の養成・訓練が教員養成の側にも求められていると思われる。
 同時に、基礎資格まで制度化しなくとも、各学校種別教員の大学院修了者の比重を高めることには、学長調査でも50%以上の支持がある。特に、学部長調査では、すべての学校種別教員の比重を高めることに、90%以上の賛成がある。また、その他の意見として、「資格の中身を質的に保証する」との指摘があった

  

  注:各設問のウェイトを単純化するため、「重要」=3、「大体重要」=2、「重要でない」=1で点数を総計し、有効回答数によって除した。2.00が平均となり、高いほど重要度が高いと認知されている。

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