第1部 調査結果の報告
3 教員養成と大学院の役割について
4. 大学院修了者の目標値
   想定される修了者の目標値は、どの程度であろうか。両調査の回答をもとに、「80%以上」、「60%以上」、「40%以上」、「20%以上」のスコアに含まれる回答数を累積して表し、「20%以下」の回答数も記した(図38)。学長調査の場合、約3分の1は回答がないが、指導的教育関係者及び高校教員の比重を高めることに最も支持が集まり、指導的教員は、回答を寄せた52校中31校が40%以上までを目標値に、高校教員は、24校が40%以上を目標値としている。また、学部長調査も同様であり、すべての職種について20%以上を目標に掲げる回答は、80%以上に達している。
 また、学長調査は、3分の1が回答しておらず、具体的な目標についてはまだ議論が不十分としている。

5.  高度専門職業人養成のための「1年課程の特化された修士大学院」について
   大学審議会答申及び教育職員養成審議会答申は、高度職業人養成のための特化した大学院を新たに提起した。この点についての回答は、学長と学部長とでは、かなり差がある。学長調査の場合、「積極的に推進」は17%(13校)だが、学部長調査では1校のみで、ほとんど消極的である。多数は、「条件を整備した上で推進」と回答している。また、学長回答でも、「推進すべきではない」との否定論も含め、半分の39校が賛成していないことは、注目しておくべきである。


(1) 条件整備について
 学長調査及び学部長調査の「条件を整備した上で推進」の記述から指摘される第1は、「1年課程の特化された修士大学院」が、従来の水準を維持した上で、優秀な学生に対して教育を行う大学院か、従来の大学院とは別なもので、水準の低下を含むものかが、明確でないことである。水準を変えずに1年制で行うものとの理解は次のような意見に見られる。
〈学部長調査〉
 「大学院専任教員の配置、施設・設備の整備、並びに予算措置を必要とする。教員の養成は「修士課程」を必要とせず「1年間の特別コース」でよいという考え方が万一あるとすれば肯定できない。相当高い資質と能力を備えた者に「特別のカリキュラム」を用意する方式と考えられる」
 「@課題意識が明確で自主的学習能力の高い、特に優れた者に限ることA入学前に科目等履修生として一定単位を修得した者に限るB大学院専任教官の配置(設置基準数を充足できないような大学では集中的指導は困難)」
 「1年で修了できる能力のある人間の選抜について適格な基準を明示すること」
 「入学してくる現職教員の研究業績によって1年課程も考えられるが、このことによって修士課程のレベル(現職教員の力量)を低下させてはならない」
 「優れた実践者として認められ、直ちに課題研究に取り組める者だけを対象とし、また、施設・設備など研究環境を整備すること」
 「1年で可能なカリキュラム、特に現職教員の研修として効果のある内容に向けての見直しを進めること。1年で修了できる資質をもった現職教員を受け入れることができるかどうか、教育委員会との合意を必要とする」
 「本人の学力、大学院の教育環境の整備、安易に流れない厳しいシステム作り」
〈学長調査〉
 「1年課程の特化した大学院修士課程を対象としたカリキュラムを編成するなど指導体制を整備し教育環境を整備する。現職教員の中で特に優れた者を入学させる。現職教員の中にも駄目な教員が多い。現職教員なら誰でも一定の期間を経れば入学させるようなことはしてはならない。」
 「趣旨には異論はないが、1年課程を設置して2年課程と同水準の教育研究を行うためには、人的資源の整備が重要である」
 「1年で終了しうる能力、業績を備えたもののみに認めるべき」
 「修士課程としての教育研究水準の確保」

 これと逆に、従来の水準を下げたものと理解した上で、区別を明確にすることを求める意見もある。
〈学部長調査〉
 「修士課程の修了(専修免の資格取得)修士の学位の授与を区別する、修士の学位は、あくまでも修士論文(課題研究としても)の提出、審査を経て授与する」
 「教員養成の修士課程にあっては、現職の受入に限って推進すべきであり、その際も入学前に科目等履修等により必要な単位を取得させること、場合によっては修士論文を課さないことを条件とする」
〈学長調査〉
 「十分な学業の評価体制をまず整備する必要がある。修士課程の修了(専修免の資格取得)と修士の学位の授与を区別する。修士の学位はあくまでも修士論文(課題研究としても)の提出、審査を経て」
 「論文中心からコースワーク、ケーススタディ中心の修士課程にする」

いずれにせよ、現在の大学院との違いなど、基準の整備の必要をあげる意見が多い。
〈学部長調査〉
 「1年課程に特化した場合の履修カリキュラムの再検討及び学位論文の扱いに関する統一的基準づくりが求められよう」
 「1年制コースの目的理念を踏まえた独自な教員基準の制定・独自な教員組織及び施設・設備の整備」
 「大学院設置基準第14条特例との関係の整理、入学資格判定の大学間の共通理解が必要」(宮崎大学)「1年課程に特化する場合、一般学生との単位履修の仕方の相違の調整、修士論文に代わる学業成果の評価を何にするのか、実務経験を生かした単位履修の評価の仕方、一般修士課程や博士課程後期の進学への道にどう対処するかの条件整備が必要」
〈学長調査〉
 「どのような場合に特化大学院とすることが可能か、普通の大学院との関係、などを明らかにする」
 「施設設備の充実。教員側の体制や様々な基準の見直し。職種・資格等についての明確な認識・規定。教官、事務官の増員。公務員が在職のまま大学院に入れる法的整備。」
 「現行2年制の修士課程と1年制の修士課程が混在するのは、教育現場を混乱させることにもなるので、別課程の設置など明確に区分すべきと思う」

 また、条件整備の方策として、科目等履修生制度などの活用により、入学以前に一定の学習を行い、水準を維持しようとの意見もある。
〈学部長調査〉
 「現職教員や社会人の大学院進学に際して大学院の「科目等履修生」制度を活用して院入学前学習として必要単位の部分的履修を行い、修士論文のテーマについても一定の見通しを立てた上で、入学した者に対し1年課程を開設することは大いに推進すべきだと思う」
 「入学前の研究歴、科目等履修生としての単位修得、現場の実践において優れた研究者・教育者であること」
 「入学前に、入学後の研究課題を設定するための準備段階における時間的余裕及び職場における理解など精神的余裕を保障するための条件整備が必要である」
 「現行2年制では修士論文作成の時間的余裕があるが、1年制では時間的に制限される。事前の準備としての事前指導等の体制が必要と思われる」
 「入学以前の研究成果を評価し論文として認めるようにすべきである。そのためには、教員が研究できる環境をつくっておかねば、例外的なものに対する効果しかなくなる」
 「科目等履修生制度等を活用し、入学前にある程度の単位を修得していること、または研究テーマ等についてある程度の実績を評価するシステムが確立されていることが必要である。1年課程の修士大学院は、意欲があり優秀な人材を受け入れる課程として機能すべきである。安易な修了が可能な課程と理解されてはならない」
 「多様化することは必要であるが入学前に科目等履修生としてある程度の単位を取得させておくことと、その間に指導教官の選定及び研究内容の方向性などを決めておくことが必要である」
〈学長調査〉
 「大学院教官の充実」
 教員増を含む財政支援措置を条件とする意見も強い。
〈学部長調査〉
 「大学院の教育・研究にふさわしい施設・設備が決定的に不足している」
 「人的資源の整備」
 「@現在の修士課程の評価をきちんとやってからにすべきであるA大学院専任教官数の配置など、特に人的条件面の整備B専修免許の上に、新たな免許を作ることになるのかどうか等、資格制度、体制との関連からの整理が必要」
 「受け入れる側の人員及び施設等を整備すべきである」
 「・講義等の過密化により大学院担当教員自身の研究が停滞するおそれがあるため、教員配置の充実等により教員の研究の機会を確保すべき・夜間、休日等における教育・研究をサポートするため、事務組織の充実を図るべき・大学院生の研究をサポートするため、高度専門職業人養成のための実践的な図書雑誌の充実や各種附属施設等の整備を図るべき」
〈学長調査〉
 「カリキュラムの整備 教員組織の整備」
 「2年分を1年に凝縮するためには、大学院の教育研究体制ならびに予算等の見合った整備がまず必要である」
 「ア)教員増 イ)施設・設備の充実 ウ)修了者に対する社会的評価の制度的確立(例えば公務員処遇の扱い)」
 「専任教官の配置」
 「水準維持のための諸方策、人的物的条件の整備」
 「施設設備の整備を含めた教育研究条件の充実。短期間で効果的な研究を進められる環境づくり、大学における教官定員の拡充等」
 「・設備 ・事務体制の整備 ・教員の配置」
 「@大学院の研究室の確立 A教官スタッフの充実」
 「教員の過重負担を起こさぬこと 教室等の設備の充実」
 「照応する授業科目設定にかかわる予算措置の必要性」

このほかの意見は次のようである。
〈学部長調査〉
 「カリキュラムの整備」
 「現職教員の休業制度の確立、施設の充実と研究費の確保」
 「ただ、教育職員については従来より、教育方法の特例(大学院設置基準第14条)による実施的な制度があり、上記の範疇に入らない」
 「入学前の準備態勢(研究の蓄積、関心の強さ等)に関する面、指導体制(教育の実践的指導に関する専門的指導能力を有する教員の確保等)の充実」
 「担当教員の増員と大学教員の教育・研究時間の確保」
〈学長調査〉
 「大学教員の間で、授業内容の整備・充実、教授方法の工夫に取り組み、更に修士論文(それに代わる研究報告書など)の水準についての理解と合意が必要となろう」
 「専門のみならず相応の教職科目の設置が望まれる」
 「1年間という制約を考えると、明確な学習目標の設定が必要である。それに対応できるカリキュラムを作る必要があろう。」
 「ふさわしいカリキュラムと教育内容の整備」
 「送り手の教育委員会側の派遣の制度か 受けて側の割り切り」
 「現職教育の派遣、受入体制の整備」
 「教員の負担過重を軽減すること」


(2) 推進反対意見などについて
 学部長調査では、推進反対として、「何のために研修、学習期間を短縮させるのか意味がない、力のある資質の高い教育をはかるのに学位記があるとか免許がT種か専修か、ではないと思う、長い人生の間で2年間学習することは保障すべきではないのか。学歴は大切だがそれで資質は云々できない」という理由が出されている。
 「何とも言えない」という回答の理由では、〈学部長調査〉では、「大学審答申では教員養成は除外されている」、「教育学研究科で“特化”の意味が明確でない」、「可能なかぎり2年課程での実施を望む」、「条件整備が必要である」、「分野、状況による」、「その内容が未だ明確でない」という意見が寄せられている。大学審議会は、当初の中間まとめでは、高度専門職業人の大学院修士課程の例として、「経営管理、法律実務、ファイナンス、国際開発・協力、公共政策、公衆衛生、教員養成などの分野」を挙げたが、答申では、ややトーンダウンした。しかし、大学における教育研究と社会における実践・実務との関係が重要な例として教員養成分野も挙げており、除外されているわけではない。
 学長調査では、「何とも言えない」理由として、「1年課程で高度職業人養成できるとは思えない」、「2年課程の特化された修士課程がなぜ考えられないのか、安上がり教育の可能性がある」、「特化の意味が明確でない」、「研究領域によって一様ではない」と言う意見が出されており、新しい大学院の概念に対する疑問がまだ大きい。

(3) 「1年課程の特化された修士大学院」の教育方法について
 大きな問題は、従来の修士課程で、大学院レベルの水準を維持する役割を果たしてきた論文の扱いであろう。教育内容として、「特化した実践的教育」については、学長・学部長とも60%程度が賛成しているが、「特定の課題研究」「実務研修」については、教育学部長は賛成しない方が強い(図40―1〜3外円が学部長、内円が学長を表す)



 なお、「特化した実践的教育」、「特定の課題研究」、「実務研修」の三者のウエイトについては、賛成の度合いから、次のような数値が導かれる。

  学長 学部長
特化した実践的教育 3.23 2.96
特定の課題研究 2.89 2.33
実務研修を重視 2.56 2.28

 注:各設問のウェイトを単純化するため、「賛成」=4、「大体賛成」=3、「あまり」=2、「賛成しない」
   =1で点数を総計し、有効回答数によって除した。2.50が平均となり、高いほど賛成。
   *非該当・回答拒否2含む

 

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