第1部 調査結果の報告

3 教員養成と大学院の役割について


6.  大学院の抱える問題について
 教員養成系大学院の問題としては、「施設・設備の不足」が60%近く、次いで、「教育研究費の不足」、「大学院教育への期待と大学院教育のギャップ」、「学生の就職問題」が続く。「担当教員数の不足」となっている。(図41)大学院は学部の基礎の上に立つとの理解が前提にあるので、教員数の問題は、学部レベルのものと意識されているかも知れない。
 大学院の活性化方策を、学長調査および学部長調査から探ると(図42)、上位2位は、「現職教員派遣枠の拡張」、「休業制度の創設」で一致し、学長は、次いで「修士課程修了者の給与待遇の改善」、「大学院固有の教員の配置」、「科目等履修生など多様な学習機会の設定」をあげ、学部長は、「志願者に対する広報活動及び事前指導」、「修士課程修了者の給与待遇の改善」、「在学年限延長の授業料等に配慮する措置」をあげるなど、やや違いはあるものの、派遣する側の措置など、教育行政の教員人事政策の改善が有効と考えていることがわかる。

 注:各設問のウェイトを単純化するため、「有効」=4、「大体有効」=3、「あまり」=2、「有効でない」=1で点数を総計し、有効回答数によって除した。2.50が平均となり、高いほど有効。



7.

 大学院のための全般的な措置について
 「問8」では、大学院の役割を増大させる有効措置、大学院の条件整備等について、自由記述による意見を求めたが、多くの大学長より積極的な意見が開陳された。次の通りである。

 第一に、大学院の人的、物的条件整備に関する意見である。
「必要な研究・教育体制の整備特に必要な教員の配置」、「大学院担当教官の定員措置、長期在学コースの設置」、「人的物的条件を整備する必要がある」、「現職教員のリフレッシュ教育という面での大学院の役割を重視したい」。あるいは、「U問11に関連して、ここでも教科重視はやめて教育心理、教育行政、その他義務教育の本質に関連したものに集中できるよう、教官の配置、施設の設備などを行う」、「大学院修士課程の目的・理念として現職教員の研修を明確化する。大学院のスタッフの充実が必要である」、「現職教員の大学院派遣に関しての教育現場での条件整備、受け入れ大学院の側の施設等の整備(県の施設より劣っている場合が多い)、現職の大学院生を受け入れる窓口業務としての事務官の配置」等を求めている。「これからの時代には、高度の専門的知識と技能を持つ教員が要求されるが、それに応えるためには、大学院の研究環境をより充実させ、学部進学生だけではなく、現場教員をも対象とした教育を行うべきであろう。」「大学院がこの問題に充分取り組めるような質の高い人的物的な条件整備が必要である。」「大学の生涯学習への開放に伴い、生涯学習プログラムの中に大学院相当の単位取得可能な講座の充実が必要である。これらの大学開放に伴って生じてくる人的条件、事務官の充当を含めて人的条件整備はとりわけ重要である。また、この計画の中に、多様な人材を活用する人的資源の開発、人材バンクの充実等も必要である。すべての面において開かれた大学としての理念を積極的に追求しなければ社会的需要は減退する。」「現職教員の研修の場として制度的財政的援助が必要である。」のように指摘している。
 また「教員資質が多様化、高度化している状況にあって、教員養成に大学院が果たす役割は、今後飛躍的に重要になってくる。特に現場や学生のニーズに対応したきめ細かい教育プログラムを用意した教育研究指導を通して、21世紀の学校教育を創造していく基幹的教員の養成が求められている。そのために何よりも人的資源に対する措置が必要と思われる。」と指摘している。
 「教育研究環境並びに条件の整備が先決である。研究科設置後も、依然として学部レベルの教育研究環境そのままで修士レベルの教育を実施することを強いられている。研究科棟の新営さえ、等閑視されたままであり、設備の充実は殆ど配慮されていない。教官組繊についても学部教育を実施するに必要な人員で修士課程の教育を行っている状況で、教員に対する過重負担を招く結果となっている。採用側(行政)は、大学院修了、専修免取得者に優遇措置を講じる必要がある。」、「大学院専任の教員の配置並びに大学院専用の研究施設の設置」、「大学全体の大学院のレベルを高め自由度を与えると共に、教員養成大学・学部の大学院については、質均レベルが向上し得るよう格別の人的配慮が必要であります。」のようにである。

 第二に、現職教育を推進するに当たっては、現職教員の就学のための条件整備が必要である。この点についても積極的に配意すべきであるとの意見が述べられている。
 「現職教員派遣枠を拡張したり、現職教員が自発的に在学できる休業制度の創設が有効である。」、「管理職を含む現職教員の受け入れ体制について再検討し、必要に応じた整備を図る必要がある。」、「大学院の果たす役割としては現職教員の再教育が重要である。現職教員が自発的に在学できる休業制度の導入が必要。」、「教育委員会による制度的措置の拡充、学校の理解、大学側の割り切り」、「大学院に入学しやすいような現場の配慮、大学院で勉強続けられる時間と費用の保証、大学院を出たことが実利につながるような教師の処遇改善」、「2年間、有給で、じっくりと学習・研究できる体制を整えるべき。」「教員資格の最低学歴を、短大から次第に格上げし、将来的には、修士とする。現職教員のリカレントな学習が可能となるよう、制度改革を行う。大学院の側においても、高度な実践研究を行えるよう、受け入れ態勢を整える(例えば附属学校との連携や、大学院生が実践研究を行えるよう附属学校を位置づける)。」、「現職教員が十分に研究できるような時間の確保と予算措置が必要。」「夜間大学院が有効」、「予算措置、設備の充実、サバティカルのような研究時間の保証。」「地域の教育委員会との連携を深める。とくに現職教員の大学院への派遣、修了生の採用と待遇、などについての連携が必要である。」、「採用側(行政)は、大学院修了、専修免取得者に優遇措置を講じる必要がある。」、「創造性を要求される教育研究は自主的でなければならない。学級や学校に問題があれば本を読み、研究会や大学院で自主的に学ぶという態勢が教員には必要であり、教育委員会から命令されて研修を受ける体制には問題がある。しかし、大学院に就学する年齢では子弟の教育に費用がかかり、「自主的に」と思っても自費で大学院教育を受けるには無理があり、また教育委員会が2年間全額給与を保障し、非常勤講師を手当するのも財政上困難である。」、「科目等履修生として数年間をかけて所定の単位を修得し、残りの単位を大学院の1年間で修得すれば、教育委員会の財政も半額で済む。14条特例の逆であるが、1年ではなしに数年間を要することにすると、長い間研究と教育の統合が実際的に図られる。」、「大学院へ優秀な学生を飛び級入学させる。大学院修了生を多く採用するよう教育委員会に働きかけること。大学院修了者の教員採用の率が高ければ教職を希望する学生の大学院進学率も上がる。教職を志望する大学院生の奨学金を優遇して配分する。」等の、多様な具体的な対応策が提言されている。

 第三に、大学院教育の内容の改善についても多数の意見が寄せられている。「幅広い教養と高い識見を身につけ、教職に関する高度に専門的な知識と技術を習得させることを目的として、将来的には、主たる教員養成を大学院で行うようにすること。教員の再教育については、教育現場の課題に応えることのできるようなカリキュラムの編成や現職教員が参加しやすい教育方法の開発など現行の大学院教育の改善・整備・拡充を行うこと。」等が積極的に提言されている。
 また、「昼夜開講制、夜間大学院の推進、幅広く高度な専門授業の開講」、「教員養成を特殊化するのでなく、十分な専門的知識・技能をベースにして、かつ教育に関わる事柄(カリキュラム開発能力、学生指導、評価力等)、社会経済等に関する認識力等を養成することが重要。」、「教育現場自身に、研究的な雰囲気があって、「研修」というような答えがすでにあるかのような名称ではなく、答えがないからこそ研究するという「研究的実践」「実践的研究」に取り組む学校現場、それと大学院とが人的にあるいは組織的に結びつけば、教科の専門に関することでも、教職の専門に関することでも、価値が大きいと思う。単に出世のために、資格をあげるために、大学院の課程が儀礼的に利用されるのでは、現場にも大学院にも価値が少ないと思う。」のように、大学院と現職教育の関係に関する本質的な留意点の指摘がなされている。
 「学部と大学院を一貫教育にしてカリキュラムを組んで、寧ろ六年制教育を目指すのも一つの選択肢では。」、「時代や社会の変化・発展に即応したことにより高度な専門的知識・能力を持った教員の養成が大学院教育の役割と考えるが、それを可能にする大学院教官スタッフや施設設備などのふさわしいレベルアップや一層の充実をまず図らなければならないと思う。教官スタッフの教育力の向上も含めて、期待されている教育機能と責任を果たせるような条件を整えることが不可欠であろう。」、「教員養成学部を中心に、現職教育のための修士プログラムをできるだけ多く創設し、毎年一定の現職教員を入学させるようにする。そのためにも、大学院入試のあり方を簡素化する必要があるだろう(AO入試に近いものにする)。修士論文もしくは研究報告書も400字詰め50枚程度のものにする。」、「修士課程に固有のカリキュラムを設定する。修士課程固有のカリキュラムのための別途予算措置を講ずる。社会的認知度を高めるための多様な措置が必要。」、「1年制の修士課程の有効な活用、教員養成系大学院(兵庫、鳴門などの)再活性化、地方自治体の認識向上への努力など」、「修士課程の教育内容が、現代や社会そして教育現場の求めているものをふまえて設定される必要があるが、現在はそれらとは関係なく、従来型の教育内容にとどまっている。学校・教育委員会等とのこの面での協力・連携が必要である。」のようにである。「大学院生が学部の授業を受講して必要単位に組み込めるような措置。」も必要との意見もある。「大学院教育の内容をより実践的にする必要がある。」、「教員が専門領域を研究する上での方法論や見方などを学ぶとともに、自分自身の個性や特徴に気づけるような機会にするため、大学院は教員希望者に向けた特別プログラム(対人関係等に関わる)を設定する必要があろう。」、「中学校教員養成課程では、一般大学などの大学院修士課程において、一定の専門科目の単位の取得を義務づけるべき。」、「今後は、中高校の教員も教育能力だけでなく、大学院において研究の素地を創るという点が必要である」、「教職科目、専門科目の強化が望まれる。」等である。

 第四に、大学院教育のあり方そのものについても、次のような特段の意見が述べられている。
 「単なる現職教員の(資格取得のための)研修機関になってしまっては、大学におく必要はないであろう。少なくとも自立的な研究能力を身につけた職業人を養成するくらいの目的は明確にしておきたい。専門的な研究テーマに携わった者が、高等学校教員になるのは、実践教育的に有効であると思われる。大学院において、教育制度と設備を充実することが必要である。」、「教員養成大学以外の一般大学の卒業生の教職専門や教育研究を深める場にも活用できる。現職教員の再教育の場。教員養成にとらわれず、教育・人間・発達等の研究を深める学術研究機関であることを見失わないようにしたい。」等である。
 「現状の教員養成大学・学部等に大学院を設ければ事足りる問題ではないと考えます。別項目で指摘したように、専門科目では、可能な限り最新且つ最先端の知識を将来教員になる学生に与えることが、教員のレベル向上には不可欠であり、このことは現職教員の再教育についても同様であります。従って、大学全体の大学院のレベルを高め自由度を与えると共に、教員養成大学・学部の大学院については、質的レベルが向上するよう格別の人的配慮が必要であります。」と指摘されている。

 その他に、大学長宛の設問でありながら、教員養成学部の内実に関する設問が多く、大学全体の立場から回答できないものが多い。国立大学として教員養成をどう考えるかという大高的視点に立った調査をすべきであるとの指摘もあった。
 まさに、本調査は、教員養成の問題を、大学の大所高所の見地から考究すべく、また一国の将来に関わる、教員養成と教員の資質能力の向上の問題について、多くの大学長が、積極的に自己の識見を開陳していただくことを目的として行ったものであり、ここに紹介したように、大学と教員養成の基本的な関わりについての優れた識見が自由闊達に展開されていることに注目したい。

 
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