◆ 資 料 編
筑波技術短期大学が協力できる聴覚障害学生受入れ大学への支援

1 聴覚障害学生の受入れ体制の整備について
 聴覚の障害とは音声言語によるコミュニケーション障害であると言って過言ではありません。したがって、聴覚障害学生にとっては話が伝わることが保障されない限り、分かる授業、意欲のもてる授業を成立させることは困難となります。聴覚の障害は、他から一見してそれと分かるものではないので必要な対策がとられないままになることも多く、情報授受の障害を持つ学生への対応の在り方、学習環境の配慮などについて当該大学内における理解と啓発が必要となります。筑波技術短期大学は、@耳が聞こえないことによる障害は何か、A聴覚障害学生とのコミュニケーション、B聴覚障害学生の学び方などについての基本的な考え方や情報を提供できる体制の整備の仕方について助言することができます。
 さらに、聴覚障害学生のためにより積極的に教育方法、教育内容等を改善充実させたいと考える大学等に対しては、次に列挙するような障害補償・情報保障に関する専門的な支援内容を提供することも可能です。聴覚障害学生の受入れに当たっては、障害保障・情報 保障の準備、心理・社会的問題へのカウンセリングとガイダンス、進路・就職相談等に対応する当該大学内の組織を整えておくことが望まれます。しかし、万全の体制が敷かれるのを待つまでもなく、実践を通して何から始めなければならないか、何が必要とされるかが分かってきます。

@ 情報保障のための人材配置について(ノートテイカー、要約筆記者と手話通訳者の人 材情報の提供)
A 聴覚障害学生のメンタルヘルス・ケアについて(聴覚障害学生の心理相談専門家の紹 介)
B 聴覚障害学生の進路・就職相談について(聴覚障害学生受入れ企業に関する情報の提 供)
C 学生ボランティアの養成と活用について(大学の授業内容に適応した手話通訳やノー トテイク技術向上の支援)
D 当該大学の近隣にある聾学校等の聴覚障害教育専門家ネットワークについて(筑波技 術短期大学の研究協力者としての派遣支援)

2 聴覚障害学生の障害の状況の的確な把握について
 聴覚障害学生の音声言語コミュニケーション能力は、障害を受けた年齢(生後すぐ言葉 を覚える前に既に聞こえなかったのか、あるいは言語獲得後の難聴か)、難聴の程度(軽 度、中等度、高度、最重度、聾)によって一人一人異なり、個人差が大きいものです。一 律的な受け入れ準備をして、不要不適切な教育環境をつくってしまうことのないように、 個々の学生の障害特性よく把握した上で必要十分な対応ができるよう留意することが大切です。「障害補償」とは、例えば補聴器を活用すること、より明瞭に話すための発音訓練 を受けること、手話のスキルを向上させることなど、主として学生の持つ障害を軽減・改 善することを指し、「情報保障」とは、例えば手話通訳やノートテイク(講義内容の即時要約筆記)の要員を配置すること、音声を字幕で提示することなど、主として情報が伝わるための環境の整備を指します。  
 筑波技術短期大学では聴覚障害学生の実態把握とそれに対する障害補償・情報保障について、次のような支援を行うことができます。

@ 聴覚障害の程度と難聴のタイプの把握(精密聴力検査)
A 残存する聴覚を使って補聴器が活用できるかの把握(補聴効果測定検査、聴能発達検 査)
B 話し言葉によるコミュニケーション能力の把握(発音発語検査、読話検査)
C 手話を使ってコミュニケーションできる能力の把握(手指メディア・スキル評価)
D 適合する補聴器の選択と調整(個人用補聴器及び補聴システムのフィッティング)
E 聴覚の障害補償のための個別指導プログラムの作成とガイダンス(聴能訓練プログラム、発音訓練プログラム、手話学習プログラム)
F 学生に合った情報保障手段は何かについての選択・推奨とその効果の予測(手話通訳 とノートテイカーのどちらが適当か、FM補聴器の効果があるかなど)

3 聴覚障害学生のための施設・設備の整備について
 聴覚障害学生受け入れのためには、特別に大掛かりな施設設備が整えられなければ適切な教育ができないというわけではありません。一般の学生への情報保障としても有効な大型液晶プロジェクター、OHP等による教材の視覚的提示は、聴覚障害学生にとっても役に立つユニバーサル(障害者共用的)な設備といえます。
 ある生活上の情報や突然の変更連絡事項などが聴覚障害学生に伝わらないで取り残されるということがありますので、こうした面での配慮が必要になります。
 一般の大学等で学ぼうとする学生の聴覚障害程度と講義の形態・内容等に応じた、適切な障害補償・情報保障の施設・設備は何かについて、筑波技術短期大学は次のような助言をすることができます。

@ 教室の音声を聞きやすく増幅して耳に届ける設備について(主として「FM補聴システム」)
A 聞き取りにくい音声を文字に代えて伝える設備について(主として「字幕提示システム」)
B 聞こえない情報を良く見える情報にして提示する設備について(主として「大型画像 提示システム」)
C 聴覚障害学生が授業を受けるのに適切な座席位置について(話し手の口形が良く見え る場所、補聴器が周囲のノイズを拾わない場所の設定)
D 連絡通報、緊急避難・誘導など生活情報の伝達・周知の手段について(フラッシュランプ、振動式目覚まし、文字携帯電話、ページングシステムなど)

4 聴覚障害学生の学習・学生生活に関する支援体制の整備について
 聴覚に障害を持つ学生が自らの障害を認識し受け入れ、聴覚障害者として積極的に生きていく態度を身につけることはとても大切です。また、聴覚障害を持ちながら社会の第一線で活躍している専門家による授業を受講することは、聴覚障害学生にとって大きな励みとなります。そして、聴覚からの情報に欠けることの多い日常の学習・学生生活において、授業場面での情報保障、履修指導、メンタル・ヘルスケア、進学・進路指導などの個 別な対応が望まれます。筑波技術短期大学では、一般の大学に学ぶ聴覚障害学生にそのような学習機会を提供し、学習意欲を高めてもらうための支援体制を整備するときに有益な情報や、聴覚の障害補償・情報補償のために役立つ教材教具、試用できる福祉機器などを提供する準備を進めています。  
 聴覚障害学生が授業場面で情報を確かなものにし理解を深めるには、特に視覚からの情報入力に配慮した教育機器や教材教具が教室に用意される必要があります。筑波技術短期大学が、開学以来開発し改善を加えてきた字幕提示システムや授業システムなどを参考に して、一般の大学に学ぶ聴覚障害学生の支援方法を検討するのがよいでしょう。筑波技術短期大学では、そのための教材教具作成と教育機器や障害補償機器などの試用について支援できます。

@ 聴覚障害関連科目の授業の提供(「聴覚障害学」の授業への参加、SCSなどによる マルチメディアを効果的に利用した遠隔授業)
A 聴覚障害を持つ非常勤講師による授業の提供
B TV電話による聴覚補償の遠隔相談事業の提供(補聴器フィッティング指導、発音指 導、手話指導など)
C 聴覚障害学生のメンタルヘルス・ケアに関する相談についての助言(聴覚部保健管理 センター、聴覚障害を持つ教官、聴覚障害児を育てた親、本学の聴覚障害学生自身などに よる)
D 字幕入り教材作成の支援(聴覚部作成の字幕入りビデオライブラリーの紹介など)
E 字幕提示装置の試用援助(聴覚部の構築したリアルタイム遠隔字幕提示システムの紹 介など)
F 聴覚障害学生の授業に適した授業システムの試用援助(聴覚障害学生講義用画像提示 システムなど)
G 聴覚障害学生の授業に適した専門分野の教材教具等の作成支援(各学科の専門科目の 授業等で開発され工夫して使用されたテキスト、実験器具など)
H 最新の補聴器・補聴システムの試用援助(デジタル補聴器、軽度難聴用音場拡声装 置、電話補聴装置等)
I 日常生活情報補償機器の試用援助(振動・光目覚まし装置、お知らせランプ、ページ ング装置、避難誘導情報提示装置等)

5 教官への支援体制の整備について
5−1 聴覚障害学生を初めて受け入れ担当する教官等に対する事前の研修機会の提供
 聴覚障害学生を初めて受け入れようとする大学では、特に授業担当予定の教官に、まず 聴覚障害学生が教室でどのような形で講義を受けているのか、前もって知ってもらうこと が大切です。それには、筑波技術短期大学の授業風景を見学することから始め、施設・設備の特徴や教官と学生とのコミュニケーション方法、授業の進め方などについて概要を把握してもらうのが最も効果的でしょう。もちろん、筑波技術短期大学のような環境をそのまま適用する必要はありません。  
 筑波技術短期大学は、対象学生の実態に応じた受け入れの心構えや対応策について、担当教官が事前に準備できるような研修機会を提供することができます。

@ 聴覚部の見学による事前研修(障害補償支援、場に応じた個別指導体制、特徴的で多様なコミュニケーション方法、生活環境など)
A 対象とする聴覚障害学生の実態把握についての研修(聞こえの程度、発音の特徴、日 本語能力の特徴、手話の効果、障害自己認識と心理などについての基礎的理解)
B 補聴器及びFM補聴システムについての研修(FMマイクの使い方、補聴器の効果と 限界)
C 教育機器・教材教具についての研修(大型画像提示装置、字幕提示装置、字幕入りビ デオ教材、OHP、プリント資料、板書の工夫など)
D 情報保障担当人材についての研修(手話通訳者、要約筆記者、ノートテイカーの役割と授業場面での連携方法)
E 対象とする聴覚障害学生の授業場面での実地指導(当該大学でのケースカンファレンスなど)
F 手話初級研修(聴覚部が開催する新任教職員手話研修会、近隣の手話研修講座等の紹介)

5−2 聴覚障害学生の教育を既に担当している教官等に対する相談支援
 聴覚障害学生を実際に受け入れてみると、その後に特徴的な問題に遭遇することが多いものです。具体的な学生の問題点が担当教官に意識され課題を持ったとき、機を逃さず相談できることが、その後の聴覚障害学生の発達を保証することにつながります。  
 筑波技術短期大学は、聴覚障害学生の指導上の問題点を解決し教授法のスキルを向上させたいと願う教官に対し、随時相談に応じ必要な支援を行う用意があります。

@ 聴覚部の研究授業、授業研究会への参加(聴覚障害学生と伝わる・分かる・意欲が持 てる授業改善を展開するための授業評価など)
A 上級・専門用語手話の研修(聴覚部の中・上級者向け及び専門用語手話研修会への参 加、近隣の手話研修講座等の紹介)
B 聴覚障害教育研究のトピックスの理解(聴覚部のファカルティ・ディペロップメント への参加、「現代聴覚障害教育公開講座」や「補聴器のフィッティング公開講座」への参 加、全国の聾学校・難聴学級担当者からの情報の提供など)
C 関係する学会・研究会、講演会等の紹介(日本聴覚障害教育工学研究会、筑波技術短 期大学研究発表会・講演会、聴覚障害を理解啓発するためのワークショップ、全日本聾教 育研究大会、全国難聴言語障害児教育研究大会など)
D 聴覚障害学生の学習・生活指導上の相談支援(ケースカンファレンスの開催など)
E 聴覚障害学生の専門教科等の指導法についての相談支援(聴覚部の各学科に蓄積され た専門分野別の指導実践例の活用など)

6 ボランティア等の支援体制の整備について
 聴覚障害学生の学習や学生生活を支援するための情報保障専門職員を大学として配置できるようになるには、一層本格的な障害学生受け入れの覚悟と組織体制が整備されなければなりませんが、そうでなくとも、学生や市民によるボランティアの役割に期待できるところが多くあるものです。情報保障のできるボランティアを学生の中に養成し、そのような環境のもとに講義が進められることにより、教官の教授法や学生の受講態度によい変革がもたらされることもあります。なお、大学内で行われる手話通訳やノートテイクには専門的な講義内容が扱われるので、一般の聴覚障害者の通訳とやや異なった特別なスキルが 求められることもあります。しかも学生ボランティア自身が受講する講義場面で同時に通訳業務にも携わるという状況が続くような場合は、特定の学生に負担が偏り無理が生じないようにしなければなりません。  
 筑波技術短期大学は、ボランティアの育て方についての助言や支援、地域ボランティアや手話通訳専門家に関する情報提供などについて協力できます。

@ 手話研修会に関する情報提供(筑波技術短期大学主催の新任教職員向け手話講習会、 初級〜上級手話講習会、地域の手話講習会などの案内)
A ノートテイク・要約筆記講習会に関する情報提供(パソコンによる筆記通訳講習会の紹介など)
B 大学における講義向けの手話通訳及びノートテイク技術についての助言(専門教育科 目の授業など一般の手話通訳で対応できない内容の通訳技法などについて)
C 情報保障サービスを受ける学生へのガイダンスについての助言(手話通訳者の心理に ついて、福祉事務手続の知識等)

7 全学の教職員・学生に対する啓発について
 一般大学の中で聴覚障害学生がコミュニケーションなどの障害を克服していくには、聴覚の障害について理解できる多くの学生と教職員の支援が欠かせません。そのための啓発活動を進めていくには、関係する種々の情報を入手することが必要となります。筑波技術短期大学では、教職員や学生に対する啓発活動のための今までに蓄積された有益な資料を提供するとともに、大学におけるFDなどに活用できる講演会・研修会など機会や情報を共有していただける用意があります。

@ 聴覚障害者のための障害補償・情報保障機器、教育方法等についての解説資料の提供 (教育方法開発センターの作成した資料等)
A 聴覚部の主催する大学説明会、授業公開、企業向け説明会への案内と関連資料の提供 (企業に対する聴覚障害理解のためのパンフレット、学生に対する就職指導のためのテキ ストなど)
B 聴覚部学生による大学祭、討論会、手話サークル等への案内と学生の作成した聴覚障 害教育福祉関連資料の提供
C 聴覚障害者のための組織・団体の紹介(全国聴覚障害学生懇談会、全日本聾唖連盟、 全日本中途失聴者・難聴者連合会、全国難聴児を持つ親の会等)
D 聴覚障害理解・啓発のための資料の提供(聴覚障害の教育、研究、福祉、医療等に関 する国内外の資料等)
E 難聴の疑似体験についての援助(難聴の聞こえのシミュレーションビデオ等の紹介)
F 障害教育に関するFDについての協力(筑波技術短期大学の全学FD及び聴覚部FD の内容紹介、障害教育に関する講師の派遣)

8 卒業後の進路開拓について
 聴覚障害学生が大学教育の成果を生かし職業を通じて社会自立するには、本人の努力とあわせて企業の理解を得ることが必要となります。筑波技術短期大学の就職希望学生は、全員が関連する主要企業に就職しています。しかし、就職後の職場でのコミュニケーショ ンに関する問題などにより、不適応を起こす場合もあります。就職後の継続的なフォローアップやリカレント教育など多面的な体制が整備されることにより、聴覚障害者の持っている能力が適切に発揮されるようになります。本学では、企業に対する啓発活動、聴覚障害者の受入れ企業の情報、聴覚障害者の職場適応のためのカウンセリングとガイダンスなどについて情報を提供することができます。

@ 聴覚障害学生の就職・進路について相談・指導・開拓するための支援体制についての助言
A 聴覚障害学生の職業適性を判定評価するための方法等についての助言
B 聴覚障害学生の就職活動や就職試験(面接)のためのガイダンスについての助言
C 聴覚障害学生を受け入れた企業からの情報提供
D 聴覚障害者の職場適応に関する問題点と対応策についての情報提供
E 就職後のフォローアップとリカレント教育に関する助言
F 聴覚障害者を雇用する企業に対する障害理解のためのガイドブック等の資料の提供
G 筑波技術短期大学が開催する就職講演会、企業向け説明会等への案内
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